10年前の自分に聞いた前回に続き、「クラフトビールとは何か」という問いについて今回は少し違う角度からこの言葉と向き合ってみたいと思います。2017年から2019年にかけて、海外で相次いだ「クラフト」をめぐる裁判・認証・定義変更・買収のニュースを追いながら書いた5本を読み返してみました。当時は海の向こうの出来事として書いていたが、「クラフト」という言葉そのものの危うさは今の方がむしろ身近に感じます。
①クラフト偽装で訴えられた(2017年2月)
ウォルマートが架空のブランドを使い、実態は大手傘下のビールを「クラフト」として高値で売っていたとして訴えられた事件。当時は「美味くてもまずくてもCRAFTなら良かったのか?」という問いを、やや他人事のように突き付けていました。今振り返ると、この「ラベルが品質に先行する」構造は、ウォルマートという分かりやすい悪役がいなくなっただけで、形を変えてどこの市場にも残り続けています。
②クラフトブルワーを証明するシールを敢えて付け(2017年12月)
Brewers Associationの独立系認証シールを、あえて付けないという選択をしたFull Sail Brewingの話。「ロゴが品質を保証しない」という指摘に、当時は「多様な見方を許容し主体的に選ぶ姿勢こそCRAFT的精神」とまとめていました。今思うと、この結論はやや優等生的すぎたかもしれないとも思います。認証を「付けない」という選択自体もまた一つのポジショニング戦略であり、完全に中立な立ち位置はそもそも存在しないのでしょう。
③日本にも「クラフトビール」(地ビール)を定義(2019年4月)
JBA(全国地ビール醸造者協議会)による定義の話。「クラフトビール」という言葉には「感情的」な意味と「統計的」な意味が重なり合っていると当時書きました。今も変わらずこの二重性は解消されていないのですが、むしろこの二重性をそのまま受け入れて付き合っていくしかないというのが今の実感に近い。
④2018年春の定義変更対応商品は失敗したのか?(2019年9月)
酒税法改正で副原料が解禁され、大手各社が一斉に新商品を投入したものの、数年でスーパーの棚から姿を消してチューハイに置き換わっていった話。当時は「価値あるビールって何か」という根本的な問いから出発すべきだと結んでいました。法律が変わっても、語られ方(マーケティング)が変わらなければ商品は定着しないのは今も同じに違いありません。
⑤new-belgium-brewing買収で考えるcraft-brewerの定義と民意について(2019年12月)
米大手クラフトブルワリーの買収をきっかけに、業界団体の「統計上の定義」と消費者の実感の乖離を懸念した記事。当時の懸念は、その後の国内外の業界再編を見る限り、残念ながらそのまま現実になっていった部分が大きい。
5本を通して読み返すと、「クラフト」という言葉は誰か一人の持ち物ではなく、業界団体・大手企業・個々の消費者それぞれが自分に都合よく引っ張り合ってきた綱引きの跡のようにも見えます。この綱引きの構図自体を面白がれるかどうかが、この言葉と長く付き合うコツなのかもしれません。
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この記事に近いテーマは『クラフトビール入門』(角川新書)でも扱っています。
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