New Belgium Brewing買収で考えるCraft Brewerの定義と民意について
先日、2018年実績で全米4位のNew Belgium Brewing(ニューベルジャンブルーイング)をキリンホールディングスが買収するという報道がありました。
キリンHD、米クラフトビール3位を買収 2020年3月までに完全子会社化
New Belgium BrewingのTwitter公式アカウントでもその報告をしています。
Today we’re announcing that New Belgium has agreed to join Little World Beverages USA, the US platform for Lion Kirin breweries, pending approval from our employee owners. To learn more read a letter from our founder Kim Jordan: https://t.co/R355QLMMhf pic.twitter.com/2eoQVQTfsy
— New Belgium Brewing (@newbelgium) November 19, 2019
ファットタイヤはどうなるんだ!?とか、タップマルシェでニューベルジャン飲めるようになるのかな?とか色々話題に上がっています。その辺りも気にはなるのですが、CRAFT DRINKSとしてはこの件に関してもう少し違った見方をしたいと思います。
以前、統計には現れないものたちと題した文章を書きました。大手による買収によってBAの定義するCraft Brewerでなくなった会社の存在について言及しているのですが、そこでこう記しています。
ABInbevをはじめとする大手の買収によってBAの視点では”Craft Brewer”ではなくなったところがたくさんあります。たとえばLagunitasやBallast Point、Anchorもそうで、ランキング上位だったところがここ5年間で幾つも抜けています。親会社が変わっただけであって、そのビールが不味くなったわけでも廃番になったわけでもない。今も変わらず醸造し、同じ名前のビールを販売しているのですが、BAの言うところの”Craft Brewer”ではないから統計サンプルから除外されています。(中略)「BAの、BAによる定義を以て作成したランキング」に異を唱えるつもりは全くありませんが、統計には現れないものたちが既にかなりの数に上っており、もう現象として全体を把握するには難しい局面に来てしまったのかもしれないなぁとも感じます。
Craft Brewer全米4位であるニューベルジャンブルーイングが抜けるとなるとますますこの傾向が強くなるわけです。だったらもうTop 50 Overall Brewing Companiesという、定義に合う合わないは問わない統計の方が実態を表すのに適当なのではないだろうかという気もしないでもないのです。それはCraft Brewerを捨てることであり、smallでindependentなビールを応援するBAとしては有り得ないですが。
また、先日東洋経済オンラインに寄稿した記事で下記のように書きました。
(BAがCraft Brewerを)定義するメリットとは何か?(中略)実は産業全体の発展を助ける大きな役割を担っています。BAは加盟しているブルワーから吸い上げたデータをまとめ、会報誌にして配布しています。会員であればウェブ版も利用できます。各州の醸造所の数や雇用の状況、納めている税額、全米および各州の傾向などさまざまな視点でまとめられており、非常に有用な資料です。これを自社のマーケティングや製造計画などに生かしているのです。また、そのデータを基にBAは政治団体としても広く活動しています。例えば小規模事業者向けの減税措置法案可決に尽力し、それに関わる各州の政治家をサポートしています。
クラフトかどうかは一旦置いておいて、ビール市場は大小様々な会社によって構成されています。BAは自身が定めた定義に則って中小の事業者をCraft Brewerとしデータをまとめて活動してきたわけですが、大手に買収されたけれども名前も内容も一切変わらない存在が増えてきたおかげでBAの視点によるビール市場の把握と世間の考える実態が大きく乖離するのではないかと心配になるわけです。少なくとも大手による買収は今後も続くでしょうし、アメリカ国内のクラフト大手がこれからもずっと独立しているとも限りません。勿論そういう傾向が予想される、というだけのお話です。今すぐどうこうということではないのですが、、、
消費者の受け止め方という部分はどうなのでしょうか?Craft Brewerであることよりも、販路や価格も含めて入手しやすさが向上することの方が消費者にとっては幸福なのかもしれないし、美味しければそれで良いのかもしれません。そうでなければ買収後のブランドがガタガタになって立ち行かなくなっているはずですが、現実にはそうではありません。勿論大手の力によって棚に押し込んで売りまくっている可能性も否定できません。とはいえ、たとえばElysianあたりは買収後随分伸びていると言われますし、伸びたということは認知が向上し販路も広がった証拠ですから買収を真っ向から否定するのもおかしな話なわけです。趣味ではなく生業、ビジネスとして醸造しているのであり、設備産業であるビールにおいてボリュームは絶対的な正義とも言えますからね。
BAによるCraft Brewerという統計的概念はシーンの総体、もしくは民意とは離れてきているのか?そしてその結果、今後飲み手との認識が大きくずれて意味を持たなくなってしまうのか?そんな考えも頭にちらつくのです。すぐに答えが出る問題ではありませんが、注視していきたいポイントだと思います。
蛇足ですが、vinepairからHop Take: For National Craft Breweries Like New Belgium, Independence Is Not Sustainableという興味深いタイトルの記事が出ました。クラフト大手の動向についてご興味ある方はこちらも合わせてご覧ください。