Take Craft Back運動について

いきなりですが、この動画をご覧ください。

アメリカの醸造者組合であるBrewers Association(以下、BA)がTake Craft Backという運動を始めました。非常に興味深い内容で、一人のクラフトビールファンとしてとても考えさせられるのです。これをどう思うかはさておき、こういう活動があるということは是非知っておいてください。シーンの歪みについて考えるきっかけにして頂ければと思います。専用のページが立ち上がっているのでリンクを貼っておきます。

Take Craft Back.com

takecraftback.comの冒頭にはこうあります。

HELP US RAISE THE $213 BILLION WE NEED TO BUY ANHEUSER-BUSCH INBEV.
(It only seems impossible if you really think about it.)

America’s independent craft breweries turned the beer industry upside down. That’s why Anheuser-Busch InBev and its Big Beer cronies are buying us up left and right. Taking our independence—and your freedom of choice—away. But we won’t be muscled out. We’re launching the largest crowdfunding effort in history to turn the beer industry upside down again!

インベヴを買収するのに2130億ドル必要なので助けてください。
アメリカの独立したクラフトブルワリーはビール業界をひっくり返しました。ただ、そのおかげでインベヴやその他大手は片っ端からブルワリーの買収を進めています。私たちの独立性、そして消費者の選択の自由はどこかにやられてしまいました。しかし、私たちも黙ってはいません。史上最大のクラウドファンディングを立ち上げ、またビール業界をひっくり返すのです!!

ここ数年でインベヴやその他大手は多数のクラフトブルワリーを買収しました。それに対抗する壮大な計画をぶち上げたのです!それにしても、名指しでインベヴを挙げてキャンペーンを行うなんてアメリカらしくていいですね(笑)

instagramでも#takecraftbackというハッシュタグでキャンペーンを行っていますし、クラフトブルワーを証明するシールについても改めて紹介しています。

WHY BUY ANHEUSER-BUSCH INBEV?というページでは大手が行ってきた悪行を羅列し、インベヴを買収すべき理由を挙げています。また、MEET THE BREWERSというページでは賛同するブルワー達の意見がそれぞれ掲載されています。長くなるのでここでは具体的には書きませんが、各々一定程度の妥当性のある主張かと思います。

この運動のイメージビデオがありますので見てください。

・・・あれ?コメディ??

forbesでも報じていますが、まぁこれはある意味でジョークみたいなものなのです。2,000億ドル以上もの寄付が本当に集まるとも思えないし、インベヴを買収するなんて現実的ではない。しかしながら、現実問題このまま黙っていられないわけです。”Craft versus Big Beer”の構図をより明確にするために行っている一種のパフォーマンスだと捉えるべきで、これによって消費者の購買行動に1つの指針を与えることこそが主眼にあるのでしょう。「せっかく飲むならクラフトの方が良いよね!」ということです。エンタメ視点として非常に興味深い活動で、遠く日本から眺めているとある意味笑っちゃう部分もあります。

さてさて、おちゃらけているのはここまでにしましょう。この運動には背景があると考えます。

アメリカにおいては「クラフトブルワーとは何か?という定義」があり、ブルワーや消費者の間に一定程度のポジティブなクラフト観が醸成していたわけです。一言で言えば、「大手なんかより、クラフトっていいよね!」と考える人がそこそこいて、その結果シェアは大きく拡大し順調にシーンは盛り上がってきました。しかし、買収が進むにつれ、クラフトブルワーには当てはまらないけれども「大手傘下の元クラフトブルワー」が今まで通り美味しいものを醸しているという事実が顕在化してきました。「独立性」が揺らいでくるわけです。そういう論理的には微妙な存在がここ数年顕著になり「クラフトブルワーとは何ぞや?」という命題自体が大手によって立てられなくなりつつあるという懸念が感じ取れます。要するに、「まぁ旨いビールだし、クラフトにこだわる必要ないんじゃないの?」という意識がシーンに影響を与えるほど出てきそうだということなのでしょう。

こういう活動が生まれたということはクラフトビールとそのシーンがマイノリティとマジョリティの狭間まで成長したという証拠であり、旧来のクラフトビールファンと何のこだわりもない層との間にいる、どっち付かずの消費者の囲い込み戦争が勃発したとCRAFT DRINKSは考えます。この戦争がどう終着するかはまだ分かりませんが、アメリカのビール市場は成熟したのだと言っても過言ではないのでしょう。少なくともマジョリティ化するかしないかの瀬戸際のフェーズにあることは間違いない。

さて、ここ日本のことを考えてみましょう。
日本では大手がスタンダード商品よりも高価格レンジで「クラフトビール」という文言を冠したビールを近年多数発売していることはご承知の通りかと思います。カタカナのクラフトビールに定義がないので、勢いに任せて広まってきて何となくデファクトスタンダードが形成されつつあるように感じられるのは私だけではないでしょう。果たしてそれはクラフトビールなのか?日本におけるクラフトビールとは何なのでしょうか?これを議論するメンタリティや場が存在しないのであれば日本においてクラフトビールの健全な伸長は無いと思います。統一的な見解を生むことが目的ではなく、インタラクティブで前向きな議論を交わせる空気感こそがまずは必要なのだと思うのです。

日本には取り返さなくてはならないほどのクラフトはまだ無かった。

少なくとも、これだけは事実なのでしょう。

2017/11/10追記
Take Craft Back運動に公式facebookアカウントが出来ています。アグレッシブな投稿が毎日行われていますので是非見てみてください。