状況証拠から考えると、クラフトビールの値上げは待ったなし?

新型コロナウイルスの蔓延で私たちの生活は随分変わってしまいました。ほんの数年前までマスクを常用する日常がやってくるとは思いもしなかったけれども、もう完全に日常になっています。ビールの方も実は随分と変わってきていて、状況証拠から見て遅かれ早かれ値上げは必至でしょう。これは避けられない状況だと思います。

まずは原料価格の高騰について。昨今話題に上がる気候変動とも関連することですが、2021年の北米で干ばつがありました。その影響で大麦の収穫量がかつてないほど少ないのです。ビールの原料である麦芽(モルト)の価格、流通にも当然影響が出ます。アメリカではすでにモルトの価格が高騰していて、私の聞くところによると日本のモルト商社でも一部値上げが始まっているようです。

次に物流費。アメリカではドライバー不足で滞っている物流ですが、燃料価格の上昇も厳しい。エネルギー価格の高騰は日本にとっても痛いところです。モルト、ホップはほぼ海外からの輸入に頼っており、その運送費は燃料価格に影響を受けます。各種報道されているように物流費の高騰はすでに始まっていて、海上輸送費は特に激しく上がりました。

また、国内配送費も同様です。コロナ禍で通販を利用する方が増えたそうです。個別に宅配してもらえることは楽で有り難いと感じる一方で、物流コストは配達件数に乗じて増えていきます。貴金属や電子部品のように小さくて高価なものであれば一度にたくさん運べて利益でも出ますが、以前指摘した通りビールは重くてかさばって比較的値段の安いものですから通販とは相性が悪い。「送料無料」を謳うネットショップは少なくありませんが、送料は必ずかかるものでありどこかの誰かがそれを負担しています。ショップ側が利益を削っているかもしれないし、仕入元のブルワリーに卸値を下げるよう圧力がかかるかもしれない。最終的には値上げしか方法がないと私は思うのです。

容器についても状況は芳しくありません。空き缶を扱うアメリカのBallという会社に関してBAが昨年こんな発表をして業界が騒然としました。

Ball Customer Reduction Program

最低発注ロットは5倍になり、契約のないスポット仕入れについてはほぼ相手にされない。空き缶の原料であるアルミの調達が難しくなったことや、ロックダウン等で外食産業が止まったおかげでとんでもない数のブルワリーが一気に缶ビール生産を始めたことが原因で需給バランスが完全に狂ってしまったわけです。この件を重く見たのか、国会議員も出てきて一旦上記条件変更については保留となりましたが、あくまでも保留であって撤回ではありません。状況が大幅に改善したわけではなく、蓋然性は未だ高いままです。世界的に空き缶の原料であるアルミの調達が大変なので日本でも空き缶の値上がりがあってもおかしくありませんし、値上げされた容器代は最終売価に転嫁されていくでしょう。

アメリカで値上げがあれば蔵出し価格が上がるので当然輸入品の最終売価は上がります。また、原料価格および配送費が上がれば国内製造品も値上げせざるを得ない状況になります。こういう状況でブルワリーやインポーターがすぐさま値上げするか(もしくは、出来るか)は定かではありませんが、値上げの前に色々と策を講じるはずです。たとえば穀物商社で言えば、少量ずつ何種類も混載していたスペシャリティモルトの取り扱いをやめて主力の商品だけに絞ることも考えられます。インポーターならば売れ線のアイテムに注力し、その他のものはズバッとやめてしまう可能性もあるでしょう。この辺りが値上げ前に行われると思うので注視していきたいと思います。

なんにせよ、他にも為替なども問題もあって値上げ待ったなしという状況だと私は考えるのですが、それが今の消費者にどう受け止められるか。生活必需品やその他のものもどんどん値上げされていっていく中でビールはどうなっていくのだろう。今のところ全く想像がつきません。