シーンにとっての統計的クラフトブルワリーの話

ちょっと今日は真面目に考えてみようかと思います。大事なことだと思いますので、皆さまも是非お考えになってください。一人ひとりが思うようになればいつしかそれが大きなうねりとなって全体を変えることに繋がるはずですから。

3月20日にbeverage dailyからTop 10 craft beer producing countriesという記事が出ました。たくさんクラフトブルワリーのある国はどこか?というものです。具体的に国名を挙げると、以下のようになります。

  • US
    UK
    Germany
    Italy
    Spain
    France
    Canada
    the Netherlands
    Switzerland
    Australia

スイスが入っているなんて意外だなぁ・・・と思ったわけですが、ふと気が付きます。「クラフトブルワリーとそうでないものをどう区別して数え上げたのだろう?」と。

“craft beer”とは何だろう 今のところの話でアメリカのBrewers Associationによる定義をご紹介しました。要約すると以下のようになります。(諸条件についてはこちらもお読み下さい。続く補足の部分を網羅しています。)

「小さい」・「独立している」・「伝統的」であることの3つです。細かな部分はあるものの、一番大事なのはこの三点。

別の記事、“craft beer”と”クラフトビール” 定義の流用は難しいでは上記の「小さい」というボリュームに関する点についてこう書きました。アメリカの基準を適用するのはやはり無理かと思っています。

量に関して言うと約7億リットル以下としており、クラフト最大手であるThe Boston Beer Companyが2014年の段階で4億7000万リットルほどです。それに対して、日本の最大手クラフトビールメーカーでも300万リットルです。
桁違い過ぎて、BAの定義はそのまま使えないと思われます。文化や肝臓の強さ(笑)も違うわけですから、流用するのにはやはり無理がある。

「クラフトビール 定義」などとインターネットで検索すれば色々な情報が出てきますが、BAの定義の紹介がほとんどです。そして、ざっくりと「日本には定義は無い」という結論のものばかりというのが現状です。「大手NB以外ってことでしょ?」という意見もあながち間違いではない気もします。また、一人の飲み手として考えた時に「まぁ、とりあえず美味しければそれでいいじゃない」とも思うのですが、ここで思考停止していてはダメだとCRAFT DRINKSは考えます。

冒頭でご紹介した記事の最後に「分類の基準」について触れています。引用してみましょう。

Globally, there are more than 19,000 breweries. Around 94% of these (17,732) can be defined as craft brewers (the definition used by this survey is having fewer than 30 staff; or producing less than 5,000 hectoliters per year; or having more than 50% of the brewery being privately owned).
世界には19000箇所以上の醸造所があります。およそ94%(17,732軒)はクラフトブルワリーだと言えます。(今回の調査に用いられた定義は「スタッフ30名以下」もしくは「年間生産量500KL以下」、もしくは「50%以上自社所有」であることです。)

この視点は非常に興味深いと思います。スタッフの数を条件に挙げているのも面白いし、BAに比べると年間生産量の基準が圧倒的に少ないことも注目に値します。

上記の定義が妥当であるかは一旦保留としますが、定義を作ると分類が出来るようになります。そして、分類出来ると統計を取ることが出来ます。その結果、マーケットや各プレイヤーの動向、時代の流れなど過去を整理することが出来、現在と未来についてデータに基づき科学的に考察することが可能となります。この点は極めて重要ではないでしょうか。CRAFT DRINKSとしては「飲み手にとっての感情的クラフトブルワリー」と「シーンにとっての統計的クラフトブルワリー」はきっちりと分けて考えるべきだと思います。

この観点からCRAFT DRINKSは前者については今のところ態度を保留していますが、後者については日本における「シーンにとっての統計的クラフトブルワリー」として「年間生産量3000kl以下」を基準にすべきと主張しています。国が考える大手と中小の境目が3000klだからです。(以前このことは書きましたので、詳しくはこちらをご覧ください。)

CRAFT DRINKSの主張に対して「いやいや、それは違うでしょ!?」と仰る方もいらっしゃるでしょう。ええ、その通りです。この主張を押し付ける気は全くありません。もしなんとなく違和感を感じるのであれば、「日本には定義は無い」という思考停止に陥らずに済むように一緒に考えませんか?「日本には定義は無い」などと言っていては全く進みませんから。シーンを盛り上げて行くためにも雰囲気や感情だけでなく、客観的データも絶対に必要だとCRAFT DRINKSは考えています。

日本のクラフトに定義と統計を。