“craft beer”と”クラフトビール” nationalとlocal

以前の投稿で日本の大手4社の新ラインナップについてご紹介しました。その中でもサッポロビールの「クラフトラベル」が非常に興味深いコンセプトを発表しています。サッポロビールが2015年3月18日に出したプレスリリースを見てみましょう。

ビールに対する趣向が多様化しているなか、拡大するクラフトビール市場に向け、こだわりの原料を活かした商品を提案します。第1弾となる「Craft Label 柑橘香るペールエール」は2種類のフレーバーホップ(ポラリス・シトラ)(注1)による鮮やかな柑橘の香りと、深みのあるコクが特長のペールエールです。クラフトビールならではの「個性」と、サッポロビールが培ってきた親しみやすい「おいしさ」を併せ持つ「ナショナルクラフト」という新たなポジションを創造し、多くのお客様に新鮮な驚きと楽しさを提供していきます。

「ナショナルクラフト」とは一体何なのでしょうか?新商品発表記者会見の模様をテレビ東京のWBSで見ていたのですが、その時こんなことを言っていました。

「(クラフトビールは)どこが作っているか分かりにくい」
「安心感が担保できていない」
「ビールを楽しみたいのに応えるクラフトと」
「ナショナルメーカーの安心感をくっつけた」

この時私は非常にがっかりしたことを憶えています。作り手の顔が見える距離でファンと接しているのは間違いなくクラフト側であり、絶対に大手ではありません。鼻持ちならない何かを感じたのでした。

そもそも、ナショナルブランド(national brand、通称NB)は全国津々浦々に商品を出せる大きさの会社です。文字通り、ナショナル。NBなのですから、どこかにだけ肩入れするわけにはいきません。

それと対になるのはローカル(local)であり、地元密着もしくはその土地に根ざしたものとなるでしょう。地元とそのコミュニティに関わり、地酒ならぬ地ビールを展開してきたのが現在のクラフトブルワリーと呼ばれる人たちです。「ナショナル」と「ローカル」は相容れない対立する概念だと私は考えます。

同じようなことをこの時サントリーHDの新浪剛史社長も発言しています。

「ナショナルブランドのところがクラフトとするのは」
「やはりクラフトビールはその地域でできないと意味がない」

日本の超大手企業のトップが世間とずれていないこのようなコメントをしたことに共感を憶えました。同時に「NBによる、クラフトビールではない何か」が生み出されていくことも示唆しているようにも思えます。大手はこれから大手なりに色々と仕掛けてくるでしょうが、それが「クラフトスピリット溢れるもの」なのかはビールそれ自体が証明してくれるはずです。この問題については少し長い目で見ていこうと思います。