Kveik(クヴェイク)

今日は酵母のお話です。一年くらい前に知ってから気になっていた北欧のアレです。

春に開催されたHood To FujiのセミナーでもGiganticのブルワーから言及があった”Kveik”。ノルウェー語なので発音が非常に難しく、外国でもまだ読み方が統一されてはいないようです。「クウェイク」だったり「クヴァイキ」だったりしますし、google翻訳で音声を起こすと「クファイキ」に聞こえます。うーん、どうしよう。とりあえずここではGiganticの方の発音から一旦「クヴェイク」と呼ぶことにします。

さて、クヴェイクについては専門誌をはじめ特集記事がたくさん出ていて、注目の高さが伺えます。このクヴェイクとは一体どういうもので、なぜ今注目を集めているのでしょうか?

Draft magazine Kveik: The hottest new centuries-old beer yeast you’ve never heard of
Craft Brewing & Beer MagazineBrewing Contemporary Styles with Kveik Yeast

概要がよくまとまっている動画がありますのでまずはこちらを見てみましょう。(英語で字幕が出せます)

まず押さえておきたいことはクヴェイクはビアスタイルではなく、ノルウェーの伝統的な農家のビールに使われてきた酵母を指すということです。ラベルにKveikとあったら発酵にクヴェイクという種類の酵母を使用したという意味です。この酵母は遺伝的に非常に多様で、ビール醸造に使われる他の酵母にはなかなか無い特徴を持っています。アルコール耐性、温度耐性が高く、発酵スピードが異常に早いなどが挙げられます。タンクを早く空けられるし、その分消費エネルギーも少なくて済むのが良いですね。また、代謝中に生成されるフェノールも少なく、割とニュートラルな感じなのだそうです。ホップや果物などの副原料の風味を乗せやすいのかもしれません。

プロのブルワーの方はこちらを是非ご覧ください。私が調べた中では一番詳しく、内容も専門的です。

Milk The Funk Wiki KVEIK

クヴェイクの文脈で外せないRaw Beer(ロービール)。麦汁を一切煮沸せずに酵母を投入します。下記はバレルで9ヶ月寝かせたRaw Beerの作り方を紹介した動画です。本当にケトル作業をしていません。高度にメソッド化された現代のクラフトビールに慣れてしまっているからか、にわかには信じがたいのですが・・・世界にはこういう作り方もあるのですね。

日本でもクランクビール、ディスタントショアなど幾つかのブルワリーがすでに挑戦しています。アメリカではもっと盛んで、Kveik Festも行われました。こちらはクヴェイクを製品として販売しているOmega Yeast主催のものです。その説明を引用しておきましょう。

We like kveik. Norwegian farmhouse ale yeast has only recently become readily available to American brewers, and a lot of us are having tons of fun experimenting with it. Kveik Fest is an invitational celebration of kveik, featuring local breweries and a number of breweries that don’t show up often in Chicago.

We’re privileged to announce that blogger Lars Marius Garshol of Larsblog (http://www.garshol.priv.no/blog/), a leading expert on kveik and farmhouse brewing techniques, will be traveling from Norway to give a talk at Kveik Fest.

Kveik Fest is being organized with incredible support from our friends at Omega Yeast. We thank them for making this event possible and for introducing us to kveik.

専門のオンライングループにも入れて頂き、自分なりに色々と調べて勉強してきたつもりなのですが、実は最近一気にその熱が冷めてきてしまいました・・・ノルウェー語が読めないというのが一番大きいのですが、決定的だったのはいくら飲んでもピンと来なかったからなのです。

私の感覚が間違っていなかったのかどうか分かりませんが、世界的にクヴェイクが注目を集めている一方でブルワーの間でも賛否両論だという話も聞きました。発酵が早く済むなどの利点があるとはいえ、クヴェイク酵母を使ったからと言って特徴的な美味しさが生み出せるわけでもない、というのです。で、その辺りが気になっていた仲間がこの酵母を使ったビールを一度に何種類も並べて飲んでみるという勉強会を開催し、それに参加しました。結論としてブルワリーにはメリットがあるけれども飲み手にはあまり良いことは無さそうだということになりました。うすうすそうだろうなぁと思っていたのですが、やっぱりそうか。

この結論は「今のところは」というものであり、クヴェイクがダメだと言っているわけではありません。正確に言えば、これまでにびっくりするほど美味しいクヴェイク酵母を使ったビールに出会っていないし、もしそれに出会ったとしても美味しさの根拠がクヴェイク酵母であると断言できるか怪しいと現在考えているということなのです。要するにまだよく分からんというのが正直なところ。世界中の挑戦的なブルワーがこれからも色々なものを作ってくれると思うので、長く付き合いながらその真価がどこにあるのかを考えていきたいと思うに至ります。