ドラフトビールを最高の状態で出す10のコツ⑧サービングテクニック

数年前とは全く様相が異なり、クラフトビールという存在が大分認知されてきたと思います。大都市のみならず、今後ますます多くの人に知られていくでしょう。その時、単にケグを仕入れて提供すれば良いのではなく、「飲み手の感動体験につながる良い状態で提供すること」が重要になってくることでしょう。美味しく提供する為にすべきことについてBAがヒントを10個挙げていますので、一つずつ見ていきたいと思います。

前回までの内容は以下です。こちらも是非お目通しください。

ドラフトビールを最高の状態で出す10のコツ
ドラフトビールを最高の状態で出す10のコツ①温度
ドラフトビールを最高の状態で出す10のコツ②ビールホース
ドラフトビールを最高の状態で出す10のコツ③ケグの賞味期限
ドラフトビールを最高の状態で出す10のコツ④適切なガス
ドラフトビールを最高の状態で出す10のコツ⑤正しい組み合わせ、グラス選び
ドラフトビールを最高の状態で出す10のコツ⑥清潔なグラス
ドラフトビールを最高の状態で出す10のコツ⑦グラスの温度

今日は9つ目の「サービングテクニック」について。上記リンクから原文を引用し、ざっくりとですが訳をつけておきます。

9. Pouring Technique for a Controlled Release of Carbonation: A Better Tasting and Sensory Experience
Pour to form a one-inch collar of foam to maximize visual appeal and aromatic properties. In no instance should a faucet nozzle touch the inside of the glass or become immersed in the beer being poured in order to avoid glassware breakage and contamination transfer. Minimize waste and excessive foaming by pouring from a fully open faucet.
9. 炭酸ガスを意図的に抜くサービングテクニック:より良いテイスティングと感覚的経験
1インチ泡をつけると見た目も良く、香りの特徴も分かりやすくなるのでそう注ぎましょう。タップのノズルをグラスの内側にくっつけたりビールの中に突っ込んで注ぐとグラスの破損や雑菌汚染につながります。タップを一気に全開にし、ロスや余分な泡を最小にするよう心がけましょう。

youtubeのBA公式アカウントに同様のことが語られている動画がありますので、こちらも合わせてご覧ください。1:43〜の”things to avoid”がそれに当たります。

さて、ここで語られている衛生面のことは特別珍しいことでもないような気がします。ごくごく普通のことですが、まだまだ散見されるので気をつけましょう。お客様は口にはしませんが、結構こういうところを見ているものですから。

また、サービングテクニックというと2度注ぎや3度注ぎなどを想像しがちですし、出回っているのもそういう情報が多いです。しかし、恐らくテクニックよりもまずはそのビールの見極めとシステムのセッティング。それが9割以上を占めると思います。その先を追求する時に初めてサービングテクニックの話になるのではないかと思うのです。合理性に欠けるとんでもないセッティングで注いでいながらテクニックうんぬんを語っても仕方ない。(もちろん、ビール自体がちゃんと美味しく醸されているという前提で。)

さて、上記の説明で気になるのは「1インチの泡」のことです。CRAFT DRINKSとしては大いに疑問なのです。ドラフトビールを最高の状態で出す10のコツ③ケグの賞味期限でも書きましたが、ビールには多かれ少なかれガスが溶け込んでいます。ガスが溶け込んでいるのですから、多少なりとも泡が立つのは当たり前です。その泡が引き起こす現象が何かを理解し、それを飲み手の感覚や嗜好に合わせてコントロールすることが大事だと考えます。確かに1インチという分かりやすい数字に落とし込む方が楽なのですが、それは最大公約数を取っただけで個々の飲み手の感動には繋がらないかもしれません。そのお店の考える理想形として出してもらいたいと思うので、その表現の一つとして泡のコントロールがあって良いのではないでしょうか。ビールのポテンシャルが一番発揮されると判断すれば泡なしのフラットで注ぐことも必要です。アロマが重要ならばグラスをチューリップグラスやスニフターにするのも1つの手です。何でも1インチの泡をつければ良いのではなく、必要十分な泡であることが重要ではなかろうかと考えます。そして、その「必要十分の線引」にお店の美学や哲学が見えるような気がします。