ドラフトビールを最高の状態で出す10のコツ③ケグの賞味期限

数年前とは全く様相が異なり、クラフトビールという存在が大分認知されてきたと思います。大都市のみならず、今後ますます多くの人に知られていくでしょう。その時、単にケグを仕入れて提供すれば良いのではなく、「飲み手の感動体験につながる良い状態で提供すること」が重要になってくることでしょう。美味しく提供する為にすべきことについてBAがヒントを10個挙げていますので、一つずつ見ていきたいと思います。

前回までの内容は以下です。こちらも是非お目通しください。

ドラフトビールを最高の状態で出す10のコツ
ドラフトビールを最高の状態で出す10のコツ①温度
ドラフトビールを最高の状態で出す10のコツ②ビールホース

今日は3つ目の「ケグの賞味期限」について。上記リンクから原文を引用し、ざっくりとですが訳をつけておきます。

3. Verify Shelf Life of Kegs, Both Untapped and Tapped
Brewers determine shelf life of their beers based on optimal flavor profile unique to each style. Know how fresh kegs are at time of delivery and how long they can be stored untapped and each breweries’ standard of shelf life once tapped. Ask your brewer or distributor representative for this information. Once untapped, you can’t go back! Untapping and retapping is highly discouraged. Doing so changes brewery-specified carbonation level of the beer and can result in flat or over-carbonated beer at best and oxidized beer at worst.
繋いだケグ、はずしたケグの賞味期限の変化について
醸造家は自身のビールについてそのスタイルに特有のフレーバーを元に賞味期限を決定しています。出荷時にどれほどケグがフレッシュか、繋がない状態でケグがどれほどの期間保管しておけるか、繋いでからの各醸造所の標準賞味期限はどれほどかについて知っておきましょう。これらの情報については醸造所や酒販店に質問してください。一度繋いだらもう戻れません。はずしたり、再度繋いだりするのは宜しくない。そうすると醸造所が明記したカーボネーションレベルを変えてしまいますし、その結果フラットになったりします。良くてオーバーカーボネーション、最悪の場合は酸化させてしまいます。

賞味期限等については醸造所に聞けば分かることなのでここでは省略します。各自それぞれの銘柄について確認して下さい。また、繋いだビールを日々テイスティングして状態を定点観測することも大事だと思います。

CRAFT DRINKSが注目したいのは「カーボネーションレベル」です。ビールには炭酸ガスが溶け込んでいて、それが味わいの構成要素の一つとなっています。気の抜けたビールは元々の味わいとは違いますし、ピリピリするほどガスが強いものもやはり違います。上記でいう「フラット」がガス抜け状態のことを指し、「オーバーカーボネーション」が溶け込みすぎている状態を指します。場合によっては舌がピリピリするほどになりますが、そんな経験をされた方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。

醸造所が出荷時にカーボネーションを最適な状態に整えているという前提でお話すると、そのバランスを崩さずに提供するのが一番良いということになります。キーケグに詰めたものならガス抜け、溶け込みが無いので完璧な状態で出せます。しかし、炭酸ガスで直接ビールを押して抽出する場合、いわゆる一般的なステンレスケグでは注意が必要です。ポイントは3つ。ビール自体のガスボリューム、ビールの温度、ビールホースの長さです。

ビールにはガスが多かれ少なかれ溶け込んでいますが、冷えた状態ではガスが溶け込みやすく、逆に温度上昇と共にガスが遊離しやすくなります。簡単に言うと、温度によって溶け込ませていられる量が増減するということ。状況によっては気が抜ける、もしくは泡立ちやすくなります。それを防ぐためにケグに注入するガスの圧力で押し込めているわけですが、遊離せず、しかし必要以上に溶け込ませない平衡した状態(=醸造所の出荷時)を作らねばなりません。ここが難しいところ。たとえば、大量のガスが溶けているバイツェンでは強めに圧をかけないとバランスが取れません。泡が立たないバイツェンならかける圧力が弱すぎてビールからガスが抜けているのかもしれません。また、泡立ちすぎるのであれば低温で高いガス圧をかけた為に溶け込ませ過ぎた可能性があります。ですから、醸造所側から「このビールは×××のガスボリュームですから、××℃で××気圧のガスをかけてください」という情報を指針や目安として是非出して頂きたい。

次に注意したいのが「抽出の勢い」です。ガス圧を強くかければその分抽出スピードが上がります。短いホースだと勢いが良すぎて注いだ時にグラスとぶつかって泡だらけになってしまいます。しかし、長過ぎるとチョロチョロとしか出て来ず、注ぐのに時間がかかってしまいます。だから、ホースを適切な長さにし、勢いを適切なところまで緩めます。先程の情報に付け加えると、「このビールは×××のガスボリュームですから、××℃で××気圧のガスをかけてください。その際、ホースは××メートルが最適です。」となります。醸造所の皆さま、4・6・8・10℃くらいの刻みで推奨ガス圧とホース長の数値を是非教えてください。

ケグを繋いだりはずしたり、温度変化の激しいところに置くとガスの溶け込みや抜けが起こり、ビールのバランスが崩れ美味しくなくなります。瞬冷式が良くない点はここにもあります。空冷式サーバーを使用し、温度を一定に保つことでかけるガス圧も一定に定めることが出来、その結果安定したサービングが可能となります。美味しく出す為にはこういう点にも気を配りたいものです。

ということは、「洗浄ロスが多くなるのが嫌だからビールホースを短くする」などということは上記の理由から意味がないことになります。もし短いホースで本来多量のガスが溶け込んでいるスタイルのものを妙に泡立ちもせず注げているのであればこういう症状が考えられます。

 短いホースで泡立たずに注げる
→かけるガス圧が弱い
→ケグ内でビールとガス圧のバランスが崩れていて、ビールからガスが抜けている
→バランスが崩れていて本来の味わいではない

ビール自体のガスボリューム、ビールの温度、そしてビールホースの長さのバランスを取り、美味しく注ぎましょう。