CRAFT DRINKS的 “Beer of the year” 2017②サワーエール編
さて、前回去年の振り返りをし、日本酒とラムを少しご紹介しました。今回から今年の“Beer of the year”を各ジャンル別に書いていきたいと思います。初めはサワーエール編です。
Jester King Spon 2016
Jester King(ジェスターキング)は以前スノーモンキービアライブにも登場したことがあるのでご存じの方もいらっしゃると思います。CRAFT DRINKSでも過去にJester Kingのことを書いたことがありますので、よろしければ御覧ください。非常に個性的な視点でビールを醸している現代シーンを代表するブルワリーの1つだと思います。
ソニックユースを聞きながら、美しさのことを考えた
素敵なツンデレ Jester Kingの場合
とにもかくにもこれは衝撃的でした。スゴい。Spon(スポン)という名前からも推察されるように、このビールはspontaneous fermentation(自然発酵)させて作られたものです。それもベルギーのランビック同様の作り方で、アメリカで生まれたグーズタイプのサワーエールなのです。ちゃんと複数の年の原酒をブレンドして作られています。こちらは2014、2015、2016をブレンドしてあります。味わいは正にランビックのグーズで、ブラインドで飲んだら区別がつかないほどです。昔のランビックに強く感じられた「馬の毛の毛布」の香りもそこはかとなく感じます。良い意味で現代のランビックよりちょっと雑です。この部分を「雑だから厚みがある」とポジティブに評価するか、「美しくない」とするかは難しいところですね。リリースされたばかりのものなので個人的には今判断せず、もう何年か後に振り返って解釈するのが正しいような気がしています。こんなにワクワクするビールもなかなかありませんし、追いかけていきたいブルワリーがまた1つ増えたことにとても大きな喜びを感じるのです。
ワインでもヴァンナチュール、ナチュラルワインなどと言って自然派のものが注目されており、急速に広まりをみせています。ワインの原料であるぶどうよりも麦は貯蔵性が高く、収穫量も桁違いに多くてその消費量もすごい量です。ブルワリーはなるべく生産工程を機械化・メソッド化して設備をフル稼働させようとするもので、酵母も単離して純粋培養し、いつでも使えるようにするのが現代のビール産業のやり方です。しかし、その方向とは全く別のアプローチがあるというのも非常に興味深い事実です。原始的で非人工的なアプローチで醸すということは注目に値すると思うのです。近年の異常なランビック人気もその味わいだけではなく、プリミティブな何かに惹かれているからではないでしょうか。たとえばテロワールという概念がビールに取り入れられるのもそう遠くない未来なのかもしれませんね。ブルーイングテクノロジーが目覚ましい進化を遂げている現代のアメリカでSponが生まれたことはどこか示唆的で、きっとそれは偶然ではないのでしょう。
Jester Kingにも関連しますが、近々書かねばならないと思っているトピックに “Méthode Gueuze”があります。今回のSponをとりあえず単にサワーエールとご紹介し、今のところ「アメリカンランビック」としていない理由にも関係します。こちらについてはまた改めてご紹介したいと思いますが、ご興味ある方はこの文章を一度読んでみてください。