素敵なツンデレ Jester Kingの場合
私が注目しているアメリカの醸造所の一つにJester King(ジェスターキング)というところがあります。酸っぱいビール、いわゆるサワーエールをたくさん作っていて高い評価を得ています。彼らは非常に興味深い実験を行っていて、いつもビックリさせられます。
Check out Jester King’s new coolshipという記事によると、同醸造所がクールシップを新調して自然発酵ビールに挑戦するとのこと。Jesterkingのものではありませんが、上記の写真がクールシップです。銅製の底の浅いプールのようなもので、熱い麦汁を流し入れて冷却するために使います。樽熟成庫の中に置かれたクールシップに外の空気が触れるよう窓も開放されます。自社で培養している酵母を投入することは一切せず、自然の中にある酵母を摂取してビール作りを行うのだそうです。
この作り方は完全にベルギーのランビックと同じです。彼らはアメリカでランビックが作りたいのですね。
ランビックは急速にその人気が上昇し、アメリカにもかなり輸入されています。ランビックが好きなら買って飲めば良いのに・・・と思うのは消費者的な発想で、作り手は「ランビックは本当に美味しいなぁ・・・どうしたらこんなに美味しいサワーエールが作れるのだろう?」と考えます。その職人魂に火がつき、実際にクールシップを導入して作ってみようと試みているわけです。
ランビックは気温が低い時にだけ醸造され、一年中作ることは出来ません。ブリュッセル近郊を流れるゼンヌ川流域に自然に生息する酵母によってランビック独特の風味が生まれると言われます。ワインで言うところの「テロワール」があるということで、純粋培養酵母を使用して一年中作ることの出来る商業ビールとは一線を画します。上記リンクの最後の部分に非常に興味深いことが書いてあります。
“We have some exciting plans for it this winter! The plans involve seeking out some interesting microflora for fermentation around the Texas Hill Country. We’ll have more on this later this winter. In the meantime, we’re excited to move forward into our fourth season with a new coolship!”
その地域を巡って、面白い酵母群を探して行くそうです。ゼンヌ川とは違うけれど、素晴らしいテロワールがきっとどこかにあるはずです。酸味をこよなく愛する私としてはこういうチャレンジを応援したくなります。だって、素敵なツンデレなのですから。「ランビック、美味いよなぁ。大好き。ベルギー最強だね、やっぱり。」という心からのリスペクトと「でも、職人としてもっと旨いものを作りたいぜ。負けるかこんちくしょー。」というパイアニア精神が混在しているのではないかと思うのです。どんなツンデレになるのでしょうか・・・日本でもJester Kingが早く手に入るようになって欲しいなぁと思うばかりです。