ビールの物流 生販三層
今日はお酒の物流のことを書いてみたいと思います。取り上げるトピックは「生販三層」です。
せいはんさんそう、と読みます。あまり馴染みのない言葉だと思いますが、ビールにとっては非常に大事な流通用語です。私たちの手元にどういう経路で届くのか、普段意識しないことについて考えてみたいと思います。
ちなみに、英語で生販三層のことを”three tier system”と言います。これは現代アメリカンクラフトビールシーンを考える場合、絶対に外せない大事なキーワードで、後日そちらに関しても別途ご紹介したいと思っています。そこから様々な問題が見えてくるので、是非知っておいてください。
生販三層とは「メーカー(もしくは輸入元)→問屋(卸)→小売」という流通の仕組、流れのことを指します。
ビールは多くの場合中間業者を通して流通し、その物流を効率化しています。各地の問屋さんにまとめて配送し、問屋さんが地元の酒屋さんに小さいロットで配送、そして酒屋さんが販売します。それぞれがその地域でハブ機能を受け持ち、効率を上げています。これにより全国展開が可能になるわけです。大手のように全国津々浦々に同じ商品を大量に供給するには非常に便利な仕組みです。
ビールは流通的視点で考えると「重くてかさばる、比較的安い商品」です。高単価商品ではないので、一度に大量に流通させて効率を上げていかないと成り立ちません。今まではそうでした。しかし、現在様々な理由でこれが崩れてきています。
例えば、「メーカー直販」。飲食店や個人にメーカー(醸造所や輸入元)が問屋(卸)や小売を通さずに販売することです。この場合、販売の回数だけ梱包、配送、そして決済もしなくてはなりません。非常に手間がかかって大変なのですが、クラフトビールではこれが増えています。
生販三層では最終消費者に届くまでどうしても時間がかかります。出来るだけフレッシュな状態でお届けする為にクラフトビールメーカーは直販を採用しているのでしょう。問屋・小売のハブ機能を利用しないので流通コストは圧倒的に高くなりますが、品質のことを考えれば仕方ないと思います。従来の生販三層のレールに載せないメリットの一つはここにあると考えます。
しかし、当然デメリットもあります。流通コストが上がるだけでなく、全国津々浦々に広がった流通網を使わないと認知を上げたり店頭の棚に置いてもらうのは大変です。広告コストや営業コストが高くなります。流通・広告・営業コストが重荷になる中小の醸造所や輸入元は美味しいものをお届けする為、昨今全国各地で開催されるビール祭りやイベントに積極的に参加しているのではないかと思います。
今までビールはコモディティの最たるものだと認識されてきました。それゆえ、生販三層による大量流通・大量消費が前提であり、それを誰も疑いませんでした。しかし、クラフトビールの登場によりそれが変化しつつあります。ビール自体のキャラクターやスタイルだけではなく、物流もそれに合わせていくのは必然かと思います。