
出版への道程8 取材で話して気がついたこと
今回のシリーズ「出版への道程」は恐らくこれが最後になります。私が裏テーマとして思っていたことについて綴っていこうと思います。
新書という形式の性質上、難しい単語は極力使わないようにしました。そのおかげで読みやすくなっている反面、直接的には書けなかった部分もあります。裏テーマと言うと何だか怪しいですが、ストレートに書かれてはいないけれども本文に色濃く滲んでいる何かについて、ということです。
どこの馬の骨とも知れない私が一冊上梓することとなり、有難いことにその本について先日取材を受けました。バリューブックスさんの媒体である本チャンネルで拙著を取り上げて頂きます。
緊張していてちゃんと喋ることが出来たか全く自信がないのですが、その取材の最中にふと口から出てきた「テクスト」という言葉に自分自身が驚きました。あぁ、普段意識してはいないけれども、私はそう思って書いていたのか、と。詳しくは近くアップロードされるyoutubeの動画を見て頂きたいのですが、私がずっと思っていて書きたかったのは「飲み手論」なのだと思います。
拙著「クラフトビール入門」では個別具体のビールはほとんど紹介していません。旨い・まずいは私的な感覚なので個々人が判断するしかないものです。それを掘り下げることは一つ大事なことであるけれども、私が美味しいと思うものを文脈を抜きにして紹介することよりも、一緒に飲んでどう美味しいかを考えて語り合うこと、乾杯の瞬間に文脈を共有することに価値があると思っています。主観的な「ビールと私」から間主観的な「ビールで繋がる私たち」という形で考えたいのです。
ブルワリーのストーリーや醸造家の想いを知ることがメディアを通じてこれまで強く訴えられてきましたが、それは「ビールと私」を強化していくもので、これが広まるとシーンは複数の「ビールと私」という関係で構築されていくことになります。ここに横の連帯としてのコミュニティは生まれにくいと感じます。そこから脱却し、クラフトビールというテーマで繋がった飲み友達、飲み仲間との乾杯を通じた関係の構築が大事だと私は思います。そして、飲み手として醸造家やパブ、酒販店とどう繋がっていくかもまた重要な点でしょう。
たとえば、商品名、ビアスタイル、量、価格だけが書いてあるパブのメニューについて考えてみましょう。それを誰の助けもなく読めるようになるのがなんとなくすごいことのように見えますが、見方を変えればそれは「ビールと私」を独学によって強化した結果とも言えます。そうした学習を不要とするような繋がり、互助的な関係を作ることが出来るはずだと思うのです。それこそがコミュニティを作るということなのではないでしょうか。
クラフトビールなるものは個別具体の単体で存立する液体ではなく、作る人、飲む人が介在して初めて動き出す現象、もしくは文化と呼ぶべきものです。拙著では、クラフトビールを語る際にもっと注目されるべきは飲み手である私たちなのではないか、という問題提起をしたつもりです。こうした視点でパブや酒販店、ビール祭りの場を考えてみるとビールの位置付け、もっと言えば体験の質もきっと変わってくると思います。そうしているうちに自然と美味しいビールに巡り合っていることが一番良いわけで、拙著がその助けになってくれたら著者として嬉しいです。
【お知らせ】
KADOKAWAの新書レーベル「角川新書」から「クラフトビール入門 飲みながら考えるビール業界と社会」を8月10日に上梓致します。こうした幸運に恵まれたのも皆様に読んで頂き、ご指導頂いたお陰です。心より深くお礼申し上げます。
本書ではこれまでのクラフトビール本とは異なったアプローチでクラフトビールという文化現象について綴っております。クラフトビールの本にもかかわらず個別具体のビールを取り上げてご紹介してはいません。クラフトビールというものが具体的に存在するわけではない、つまり「クラフトビールというビールはない」のであり、あるのはイメージだということを説明するのがこの本の目的の一つだからです。その上で、クラフトビールを液体ではなく文化現象として描き出し、「ビールと私」という閉じた系からコミュニティ、社会へと開いた系へと転回していくことを提案したいと思い、筆を執りました。本書を手に取ってくださった方が素敵な一杯に出会う手助けになってくれることを心より願っております。
現在、下記で予約受付中です。また、お近くの書店で「ISBN:9784040825410 クラフトビール入門 飲みながら考えるビール業界と社会」とお伝えすれば予約・取り寄せも可能です。ご拝読賜りますようお願い申し上げます。
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