ビール祭りの機能

各種SNSなどで皆さん見ていると思いますが、ビール祭りの中止発表が多いですね。クラフトビールファンにとっては寂しい限りなのですが、まぁ、このご時世仕方ないのかもしれません。

これは業界関係なく同じ様相で、つい先日日本中をがっかりさせたのは冬のコミックマーケット開催中止の発表でしょう。

冬コミ中止で2020年はコミケなし、準備会「苦渋の決断」 金融機関から資金調達中

経済効果として1回200億円とも言われる世界最大級のイベントであっただけに参加者だけでなく、印刷所や交通機関、宿泊関連企業へもダメージが大きいと思います。私もいわゆる夏コミにサークル参加する予定でしたが、それが中止となって冬コミにスライドしていただけにこの一報を聞いて大きな溜息をつきました。

私も新刊を出すべくコツコツ書いていたんですけどねぇ・・・。締め切りが無いと書けないタチなのでどうしたものかと空を見上げるわけです。まだ完成はしていませんし一部書き直しの必要もあるのですが、どうしたら良いのですかね、全くアテのないこの7万字は。相変わらずのフルスイングをしていただけに心は抜け殻のようです。はぁ。

私個人の悩みはさておき、コロナ禍によってイベントが開催出来ないことでシーンに対してどのような影響があるのかは気になるところであります。アニメ業界を取り上げて世界オタク研究所から素晴らしいレポートが出ていますのでご紹介致します。大変意義深く、読み応えもある内容なのでお時間ある方は是非全文お目通しください。

Covid-19の蔓延による日本のアニメ産業への影響

上述の通りアニメ産業を主眼に書かれているわけですが、他の業界とも共通する点も多いと思われ、特にクラフトビールシーン、ビール祭りと共通する部分を抜き出してみようと思います。

これらのイベントのリアル開催の中止により、アニメを送り出す側からみれば、世界のアニメファンや関連企業に向けた作品のプロモーションの場が失われ、商談の場が失われた。

ブルワリーから見るとビール祭りが中止になるということ卸売ではなく直販の機会が失われたということです。実際の飲み手と対面する機会の無いブルワリー、ブルワーにとってリアルなリアクションを得られる機会が無くなったことは本当に痛い。これに加えて更に痛いのは「ファンや関連企業に向けた作品のプロモーションの場が失われ、商談の場が失われた」ということ。裏返すと、ビアパブ、ビアバーにとっては「有料試飲展示会が無くなった」ということでもあるわけなのです。これ、実はものすごく影響が大きいと思います。

たとえば、関東でお店を経営していると日々の営業がありますから関西にはしょっちゅう行けません。ですから、地方の気になるブルワリーがビール祭りやイベントに合わせて関東に出張してくれるとありがたいですよね。実際会場に行ってブルワーの方にご挨拶して名刺交換もできるし、実際にブースで試飲可能です。実際に作っているブルワーに醸造に関するこだわりやブルーイングプロセスについて質問も出来るし、なんならその場で発注も出来てしまう。

また、別の地域の同業者に会うこともあるでしょう。地域で人気の傾向、消費の動向も違うでしょうからSNS等で全公開出来ないような、たとえば気になる銘柄の評判や最近飲んでみて良かったものの感想などの情報が直接やりとりされることも少なくないと思います。こういうネット上では得られない情報、体験があるのがリアルの対面イベントの良かったところです。

事業規模の小さい、いわゆる問屋を挟んだ卸売でそれほど流通していないクラフトビール産業においてビール祭りはリアルでダイレクトなBtoBマッチングの場として機能していたと言えます。ビール祭りは単に色々飲んで楽しいというだけではなかったと思うわけなのです。実はブルワリーにとっては「自社商品の展示会」でもあったし、飲食店事業者にとっては「トレンドチェック」、「有料試飲ありの即売会」、「生産者訪問」、「オフライン情報交換会」という極めて重要な機能があったと言っても過言ではない。

それではリアルイベントの開催が出来なくなったアニメ業界はどういう策を講じているのかを見ていきましょう。気になる部分は赤字にして引用します。

オンラインでの開催は、各イベントの主催者にとっては苦肉の策だが、オンラインならではの効果もある。7月3、4日に開催された「Anime Expo Light」は、YouTube、Twitchを使って無料配信され、それらの多くを日本からも視聴できた。アニメ関連企業が開催したパネルの中には合計で10,000人以上の視聴者を集めたものもあり、リアル開催で使うホールやボールルームのキャパシティの数倍の参加者を集めたことになる。また、通常はロサンゼルスで開催される「Anime Expo」のパネルを東京の自分の部屋から見ることはこれまで経験できなかったことだ。予算や手間のかけ方はパネルごとに大きく異なるが、ライブ演奏や声優によるバラエティを組み合わせるなど例年行われていたリアル開催のパネルとは異なる要素を組み合わせて効果をあげていたものもあった。こうした部分は、リアル開催が再開された後も参考になるものと考えられる。ただ、例年のリアル開催と同様にオンラインへの参加を有料とした場合にどんな結果になったかはわからない。

アニメの場合、映像を視聴するという行為はその視聴デバイスに依存する部分が大きく、映画館以外にもスマホやタブレットでも可能です。モニターの大きさ、スピーカーやヘッドホンの性能で視聴体験の質は多少異なるかもしれませんが、視聴すること自体には問題が無いでしょう。無料で公開したことも大きいと思いますが、リアル会場のキャパシティを超える視聴者が集まったということに今後の可能性を感じます。

「オンラインへの参加を有料とした場合にどんな結果になったかはわからない。」としていますが、この部分は成功している先行事例が多数あるので余地があると考えます。たとえば、ニコニコ動画のプレミアム会員のように低速は回避されて常時サクサク見られるとか。投げ銭システムの組み込みも可能かもしれない。諸々のリソースの問題もあるでしょうし一気に実装とはいかないとは思いますが、打てそうな手がたくさん見えていてやりようによっては大化けするかもしれません。

一方、同レポートではこういう指摘もなされています。

また会期中に延べ35万人が参加する会場の熱気や一体感、巨大イベントに参加することの高揚感をオンライン上で再現することは難しい。数が増えたとはいえ、通常少数派と見られている人たちが集まって楽しむ“場”としての機能に変わるものはまだオンライン上にはない。多くのファンにとって企業のパネルやアニソンのライブは後からついてきたものであり、ファンが集まる“場”としての機能こそがファンイベントが本来持っていた価値であるからだ。こうした点が、今後同様な状態が続いた場合の課題になるものと思われる。

コンテンツの性質上、こういう善後策を打てないのが味覚です。そして、味覚体験イベントという物理的な「場」と「空間共有」いう概念は仮想空間が生まれたからこそ対比的に「熱気と体温の一回性」という点で一層意義深くなったとも思うのです。クラフトビールは特に「仲間と酌み交わすこと」が満足度に大きく影響を与えます。お酒が美味しいという前提の上で、リアルな空間と時間を共有することで生まれる体験が本質的なのだと自らの経験から思います。そのため、アニメの方法論を丸々取り込むことは出来ないだろうと考えます。だからこそ、何か他の手を考えなければ。ファンが集まる“場”が無い今、シーンとして各事業者としてどういう解を導き出すかが問われているのかもしれません。