sugi daddy片手に、TKBrewingで素敵なコミュニティ空間を堪能した話
ビールも美味しかったのだけれど、その時間と空間そのものが素晴らしかった。
今日はsugi daddy(スギダディ)というビールとそれにまつわるお話です。
アメリカ・オレゴン州のポートランドで年に一回開催されているBeer Pro /Am(ビールプロ・アマ)というイベントがあります。文字通りプロとアマチュアがコラボしてビールを作るのですが、2017年日本から大窪氏が参加しPints Brewingと共同でsugi daddyを生み出しました。
残念ながらコンペティションで賞を取ることはできなかったのですが、その時仕込んだものがごく少量日本にも輸入され、そのお披露目会にも参加しました。代々木のWatering Holeで大窪さんご自身と一緒にあーでもないこーでもないと言いながら楽しく飲んだのを憶えています。(その時の写真を引っ張り出してきたのですが、おなか空いていたのか、カレーうどんも食べていましたw)
sugi daddyが面白いのは杉をインフューフュージョンして仕上げるビールであるということがまず挙げられます。ドライホップならぬ、ドライスギをしています。それによって、ホップではなかなか出せないレベルのパイニーさやウッディなニュアンスがグッと出てきます。杉だからなのか、そこはかとなくマイナスイオンというか、ミントを思わせる清涼感も感じました。非常に個性的でお酒としての出来も素晴らしい一杯でした。
「sugi daddyを更にアレンジして日本で作る」ということで先週神奈川県川崎市のTKBrewingにお邪魔しました。今回はTKBrewingのオーナーブルワーである高林さんと協力してsugi daddyをBrut IPAに仕立てたものです。最終比重1.000まで下がりながらもペラペラではないボディで、そこにふんわりと杉が香ります。更に希望があればその場で鉋で削った杉を追加で入れることも出来ました。通称「追杉(おいすぎ)」で、これがまた面白いのです。新品のタンスのような、家具店に入った瞬間のようなアロマ。こう聞くと美味しくなさそうなのですが、実際は全然そんなことはなくて。これは面白い、とにかく面白い。
お酒自体のレベルが高いというのはもちろんなのですが、そこに集う人々が素敵なのでした。大窪さん、高林さんお二人の人徳もあってのことですが、ビールを愛してやまない方達が17時のオープンからわらわらと集まり始め、いつしか満席に。ビールの美味しさについて語り合ったり、本人に作り方を尋ねてみたり、感想をぶつけてみたり。それはそれは活気に溢れた空間でした。
TKBrewingのあるUnicoという場所は持ち込み可なので、おつまみ持参で来た方もいらっしゃいました。みんなでシェアしたいお酒を持ち込んで仲間とあーだこーだ言ってみたりも。実は私も知人に頂いたドイツのど田舎にある超地元密着ブルワリーのバイツェンやダークラガーがあったのでそれを開けました。みんなにバイツェン振る舞いながら、互いに近況報告やら最近旨かったビールの情報交換を。「今度あのイベント一緒に行こうよ」みたいなお誘いがあったり、仲間と旧交を温めることも出来て非常に嬉しかったです。
そう、気がつくと誰一人として「ビールvsオレ」という形の閉鎖的精神空間を作って他の人を遮断しながら飲んでいないのです。ビールを中心にたくさんの人が集まり、暖かな空間が作られている。「あぁ、こういうのいいよなぁ」としみじみ思うのでした。
Craft beerとcommunityには深い関係がある。不味いビールや思想の見えないビールに人を引き寄せる力は無いだろう。少なくとも私は近づかなくなってしまう。しかし、美味しいビール、確固たる意志と意図が詰まったビールのある場所に人は自然と集まり、いつしか集まった人やそれに共感する人たちがコミュニティを形成します。良い意味での溜まり場感といえば良いでしょうか。美味しいビールとそれを愛する仲間がいる空間。これこそがあるべきコミュニティ空間の一形態なのだろうと改めて思うに至ります。
そこでもう一つだけ考えなくてはならないことがあります。「この空間に存在させてもらえるということの幸せ」とは「このコミュニティに対して自分に出来ることは何かないだろうか?」と自問しなくてはならないのがセットになっているということです。ただ単にフリーライダーではいけない。私達は社会に生かしてもらっているのだから。今日私がこの話を書こうと思ったのはきっとそういうことなのだと思う。
TKBrewingでsugi daddyはまだ楽しめると思いますので、是非。TKBrewingはJR川崎駅から徒歩5分くらいのところにあります。私も何度もお邪魔していますが、TKBrewingのオリジナルビールもとても美味しいので召し上がってください。
大窪さん、高林さん、素敵なビールをありがとうございます。また乾杯致しましょう!