そういうことになっているのだから、多様性が無いに決まっている
Blogosで「私が日本でビールを飲まなくなったわけ」という非常に面白い記事を読みました。(その記事に対するコメントもまた興味深いのでお時間ある時にぜひ見てみてください。)この記事は多くのポイントに触れているのですが、その中で出てきた1つのトピックについて少々書いてみたいと思います。
全文は上記リンク先に直接当たって頂くとして、CRAFT DRINKSが注目したいのはこの部分。
個人的にはビール会社と飲食店の関係がビール市場全体をダメにした気がします。まず、日本では4大ビール会社が飲食店とそれぞれ契約をするのがほとんどだと思いますので店に4つのメーカーが全部あって好きな銘柄を選べるケースはほとんどないと思います。つまり、客にビールを選ぶ権利がないわけです。
(中略)
最近でこそ、日本のビール会社各社はエールを含めた様々な種類の缶ビールを売り始めました。しかし、飲み屋ではビールは基本的に一種類しかないのです。これはビール会社の戦略ミスですし、それ以上にビール会社が飲食店と1対1の契約に縛ってしまったことで顧客開拓に失敗した気がします。
あー、そこに触れちゃった・・・みんな気がついていたけれど、何となく口に出すのが憚られてきたこのことに・・・
日本のビールは大手5社で99%を占めているわけですが、そのうち業務用、つまり飲食店で使用されるのは3割ほどと言われています。樽生は飲食店の専売特許で色々なお店で見かけますが、大手各社のものをいくつも並べているところは殆どありません。大体どこか一社を担いでいます。加えて、メニューを見るとハウスワインや梅酒、チューハイやウイスキーなどもその会社の製品にしてあることが多いです。チェーン展開しているお店ではその傾向が顕著だと思われます。「え、そうなの?」と思われた方は是非大手の商品ページを見て下さい。ワインやウイスキーも紹介されていて、メニューで見たあの銘柄が載っているはずです。
引用部分で指摘されているのは「専売契約」というもので、向こう数年間この会社の商品を使いますという契約をすることを指しています。(ここで詳しく説明すると長くなるので、googleで「専売契約 ビール」などと調べてみて下さい。概要はすぐに分かって頂けると思います。)飲食店側には使い続ける見返りが色々あって、たとえば協賛金や備品の無償提供、メニューやPOPの作成代行だったりします。また、ビールサーバーの無償貸与もそれに含まれると考えて良いでしょう。(ちなみに、露骨なリベートのようなものは先日施行された酒類の公正な取引によって以前より規制されるようになりました。)この記事の筆者は飲食店がこのような契約体制にあってビールが一種類しかない点を指摘しているのだと予想します。
では、契約しなければ良いのではないか?そうしたら好きなものを好きなように使えるし。
そう考えるのが普通ですよね。ええ、そうなんです。しかし、なかなかそれがうまくいかないのですよ、実際は。
たとえば、どことも契約せずにビールサーバーを自前で用意すれば何でも好きなものを使えることになりますが、そもそもビールサーバーが日本では気軽に買えない。いや、正確に言えば、ビールサーバーメーカーはあってサーバー自体もあるのだけれど売ってくれないのです。某ビールサーバーメーカーのHPには「通常飲料メーカー様への販売となっており、個別のお客様への販売はいたしておりません」と明言しています。実際この会社の営業の方に尋ねたのですが、「個別のお客様」とは個人および飲食店のことだそうで、個人的に欲しくて問い合わせてみても絶対に買うことが出来ません。(ちなみに、この文章はテキストではなく、画像になっている点もなんだか気になるなぁ・・・)そういうことになっているので、仮にオークションなどで手に入れたとしてもメーカーはメンテナンスの面倒も絶対に見てくれないです。
日本で作っているのに、色々飲めたら楽しいはずなのに、売ってくれないのです。
この文章では「メーカー縛りにするから消費者に選択肢がなく、シーン全体も多様性がなくてダメ」という論旨かもしれませんが、ハードウェアの視点からすれば「そう簡単に増やせないのだから多様性が無いに決まっている」わけなのです。
以前この記事で指摘しましたが、タップマルシェは1つのソリューションであるとも言えます。その意味で言えば大歓迎。とはいえ、無償貸与で縛りを入れつつ、基本的には囲い込みのスキームです。汎用性は無くて、使用できるアイテムも限られています。完全なる自由ではありませんが、現状では最適解なのでしょう。