お目が高い
CRAFT DRINKSはクラフトビールを中心に色々なことを書いてきましたが、クラフトビールはクロスオーバーな存在であり、隣接領域との境目は極めて曖昧になりつつあります。個人的には長年親しんできたウイスキーやその他スピリッツに非常に関心を持っています。ものすごく簡単に言うとビールを蒸留すればウイスキーになるわけですから、ビールの延長線上にあるものなのです。事実、大きな醸造所は近年蒸留部門を設け、スピリッツ製造に乗り出すところが増えています。クラフトスピリッツは今年間違いなく注目のキーワードの一つです。
で、こんなニュースが。流石はレミーコアントロー・・・お目が高い。
今回アメリカ・シアトルにあるウエストランド蒸留所が世界最大級の酒類グループであるレミーコアントロー社によって買収されました。ウエストランドのウイスキーはスコッチモルト販売さんが輸入していてすでに日本でも入手可能ですが、ジム・マーレー氏など業界の方からも評価が高く、CRAFT DRINKSもアメリカンシングルモルトの先駆けとして注目していた銘柄の一つです。
スタンダード品も高評価ですが、こちらの蒸留所ではGARRYANA(ギャリアナ)という、蒸留所のある地域にしか存在しない希少な木材を使用した樽で熟成させたウイスキーを限定品でリリースしていました。これは様々な挑戦の内の一つですが、スコットランドやアイルランド、日本、カナダ、そしてアメリカのバーボンとも違う新しいものを生み出そうとアグレッシブに活動しているのです。まだアメリカンシングルモルトウイスキーについては歴史が短く評価が定まっていませんが、この熱量には感じ入るものがあります。
この媒体でも多数ご紹介しておりますが、大手ビール会社が世界各地のクラフトブルワリーを買収しています。ビールは数十日で完成しますから商品リリースまでのサイクルが早い。つまり、短い期間でPDCAサイクルをガンガン回すことが出来、それによってマーケットトレンドに対する細かな対応が可能です。それに対して、年単位の熟成を要する蒸留酒は最低でも数年先のことを予想して生産しなくてはなりません。(スタンダード商品が12年もののブレンドであればやはり18〜20年はかかるでしょう。)レミーコアントローが今回ウエストランドを買収したということはクラフトスピリッツやアメリカンシングルモルトが今後メインストリームに躍り出てくるだろうことを予感させます。クラフトスピリッツとアメリカンシングルモルトウイスキー、要チェックです。
皆様は普段クラフトビールを召し上がることが多いかもしれませんが、たまには隣接領域のお酒も試して見て下さい。醸造酒と蒸留酒という違いはあるけれど、共通点も多く新たな発見があると思います。そして、そこを通ってからビールに帰ってくるとまた違う景色が見られるのではないかと思うのです。
さて、私は海外のウイスキーを飲むことも多いですが、日本人ですし日本の新興蒸留所も応援したいと思っています。埼玉の秩父蒸留所をはじめ、ガイアフローさんの静岡蒸留所、北海道の厚岸蒸留所や滋賀県の長濱蒸留所、マルスさんの津貫蒸留所、笹の川酒造さんも新たに動いています。リアルタイムでその進化を見ていけるなんて何と幸せなことでしょう。実は今、日本のウイスキーも相当面白いのです。