フレッシュさにまつわる矛盾

ちょっと気になったことがあったので、再掲。全文載せます。短いものなのですぐに読めてしまうと思います。お目通しくださいませ。

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先に断っておきますが、当該ビールを批判しているのではありません。単に分かりやすい例として挙げただけであって、それ以上でもそれ以下でもありません。その点はご承知おきください。

アメリカのStone Brewingは鮮度にこだわり、賞味期限が僅か37日間のIPAであるEnjoy Byシリーズを定期的にリリースしています。輸入元が空輸で手配していて、ここ日本でもリリースしてから1週間から10日ほどで飲むことが出来ます。

世界の物流網はすごいなぁといつも思う一方で、少しだけ気になっている事がありました。一週間は確かに早いけれど、リリースからもっと短時間で飲めるのものはたくさんあるのに何故これを評価するのだろうか。

考えてみれば当然なのですが、日本のブルワリーなら充填したその日に出荷も不可能ではないのだし、うまくいけばリリース後24時間以内に店頭に並べることも、なんなら飲むことも出来ます。フレッシュさ、時間の短さだけを取り上げれば国産の方が圧倒的に有利なのは間違いありません。日本における国内物流のスピード感を前提に考えると空輸であっても外国から持って来るのでは遅いのは当たり前なのです。

ここで考えてみたいのは空輸より早くてフレッシュなのにEnojy Byの方が何故それを武器に出来ているのかです。国内ブルワリーがフレッシュであることをそこまでアナウンスしていない可能性、アナウンスしているけれども飲み手に響いていない可能性も否定できませんが、私が感じているのは、意識的か無意識的かは一旦置いておいて、アメリカ礼賛の思想が根底にありそうだということです。その補助線を引くことで強い意味を飲み手が感じているのではないかと思うのです。

飲み手が勝手に作り上げたクラフトビール像があって、ホップの効いたIPAはフレッシュな方が美味しいという或る種の刷り込みを補強する意味でEnjoy Byはマーケティングにおける成功を収めたと考えます。実際、かっちり仕上がっているのであれば早いほうがホップの風味を楽しむことが出来、その意味でこの考え方は正しいと思うのですが、やはり舶来物として本場アメリカからやってきたということが下駄を履かせているようにも感じます。

品質として同程度のものが日本国内で作れるのであればフレッシュさで確実に勝る国産品を評価すべきなのは自然なことのはずです。現状そうではない可能性があるということは何かしらのバイアスがかかっていると考えるべきでしょう。フレッシュさにまつわる矛盾を私たちは違和感なく受け入れていることについて議論することは一定の価値があると思います。きっとその議論は私たちのクラフトビールに関する観念の一部を明らかにしてくれるはずです。