ポートエレンには感じなかった寂寥
先日のことです。
「やっぱりポートエレンうまいよー」という人がいた。
ウイスキーを飲まない人にはチンプンカンプンかもしれないのですが、ポートエレンは1983年に閉鎖してしまったスコットランドのウイスキー蒸留所のことです。私が業界に足を踏み入れた頃はまだまだたくさん出回っていて、割と普通に飲めました。UDのレアモルトとか。今や幻のお酒で、価格もすごいことになっています。もうとてもじゃありませんが、飲めません。
その発言を聞いて、うーん、何ていうのかなぁ・・・「ふーん、あ、そう。」って感じがした。
たぶんそれは希少性と思い出による補正なんじゃないかなぁと思うのです。
レアだからといって旨いとも限らんし。
勿論ボトラーのものなどで抜群に美味しいものはたまにあるし、事実そういうものもたくさん飲んできましたが。
でも。
ポートエレンだけでなく、閉鎖してしまったローズバンクもブローラなどの蒸留所のウイスキーも本当にスタンダードが美味しかったらその当時もそれなりに売れただろう。
であれば、潰れなかったのではないかと思うのです。
たぶん、他にもっと美味しいのがあって、無くても困らないくらいのレベルだったんだ、きっと。
・・・お酒に携わる職業人としてこんな風にドライに判断することも出来る。
だけれども、人間誰しもモノや場所などに対して何かしらの思い入れというものがあるもので。
初めて感動したものや美味しいと思ったもの、びっくりして新しい扉が開いたもの。
きっとそういうことがたくさんあって、各々に刻み込まれているはずです。
たとえ世間では人気が無くても自分が好きだということ、そして醸している人の想いに触れて心が動いたことは紛れもない事実なのだ。
人間って、無くなると急に寂しく感じるようにできている。
後悔先に立たず、というやつだ。
このモヤモヤした何かをどうしたら解消できるのだろう。
最近そんなことをよく思うようになった。
歳のせいだろうか。
ウイスキーの世界では難しいかもしれないけれど、クラフトビールの業界は飲み手と作り手の距離が近い。
だから、美味しかったら美味しかったよと伝えるのがいいと思う。
イマイチだったらその理由も含めて正直にそう伝えた方が次に改善する余地が生まれるのではないだろうか。
そういうインタラクティブなやりとりが繰り返され、いつしかシーンが変わると思うのです。
Twitterのタイムラインにこんなものが流れてきた。
今月半ばに栃木県のプレストンエールが閉鎖されるそうです。
この度弊社は3月21日をもちまして、親会社であるジョイフル本田と合併することといたしました。
これに伴いブルワリー事業の継続を検討した結果、誠に遺憾ではございますが2020年3月20日をもちまして事業を終了することといたしました。
今までのご愛顧誠にありがとうございました。 pic.twitter.com/Hu3iFhrDYM— プレストンエール (@preston_ale) February 28, 2020
リアルタイムで美味しいものは美味しいと評価したいし、自分なりにそうしてきたつもりだ。
菊地さん、須藤さん、梶山さん、小野崎くんという歴代のブルワーの皆さんを存じ上げていて、会うたびにビールのことをたくさんお話した。
それもあって今回のことについては思うところがたくさんある。
今までプレストンのビールを何杯飲んだだろう。
もっとブラウンエールやスタウトを飲めば良かった。
毎回毎回こんなことがあるたびに、酷く心が荒む。
そして、いつまで経っても何も学習していない自分に苛立ってしまうのだ。
寂寥、もある。
いや、そんなきれいなものではない。
もっとドロドロした何かだ。
ちくしょう、悔しいな、本当に。
そう言えば、新型コロナウイルスのせいで再結成したNumber Girlのライブが無観客での開催となり、youtubeでライブ配信していたのを数日前に観た。
そう、OMOIDE IN MY HEAD、になるのだ。