「#ビールめし」を眺めてうっとりしつつ考えたペアリングのこと

突然ですが、instagramを使っている人に見て欲しいものがあります。家飲み好きの方は絶対見たほうが良いですよ。オシャレ家飲み、ここに極まるといった感じ。

#ビールめし

以前からこのハッシュタグのことはfacebookで知っていて、「うわぁ、毎日きれいな仕立てのお料理とビールの画でイイなぁ」と思っていました。しかしながら、instagramと連動していたとはつゆ知らず。先日発見して一気に見てしまいましたが、改めて素敵だなぁと感心しきりなのです。カラフルでうっとりします。お料理もさることながら、お皿とクロス、そしてビールの対比もオシャレだし、たまに出てくる小物使いもセンス抜群。

 

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11月9日のビールめし 柿とオレンジ、リンゴのサラダ ビールは、ブリュードックの clockwork tangerine アルコール4.5% sitrus session IPA タンジェリンオレンジ、つまり、東洋的なみかんを使ったビールです。優しめIPA に、マヨネーズで食べる柿のサラダは、小学生の頃からの大好物。よく合いますー。爽やかな土曜日の朝、やることはたまっているけど、朝くらいはゆっくりと!ビールの色もオレンジがかっていて、ちょっと香ばしく甘い香りがあってカラメルシロップが混じっているかのよう。マヨネーズとよく合います! 器は、今お気に入りの漆器プレート! #ビールめし、#beer food、#brewdog、#clockwork tangerine、#うるしフォト

Kinue Negishi(@negishikinue)がシェアした投稿 –

上記の投稿をなさってる方のことを実はよく存じ上げています。彼女はプロのフードコーディネーターでビールにも非常に詳しく、ビールと料理のペアリングの講座をなさっていたりします。投稿のコメントに詳しいレシピなどはありませんが、平易な言葉で料理の仕立てや合わせ方に関するポイントをそれとなく綴っていることもあり、大変勉強になります。これからも投稿楽しみにしております!!

さて、ビールを飲むと食欲増進にも繋がると言われていますし、ビールは比較的度数の低いお酒なので食中に向くと思います。ビール単品で飲むのもそれはそれで良いのですが、ワインや日本酒のように料理と合わせて楽しむのもまた一興です。ビールと料理を組み合わせて楽しむ「ペアリング」という考え方は最近広まってきています。webでもペアリングに関する情報はたくさんありますし、たとえばこんな書籍も刊行されています。ご存じの方も多いのではないでしょうか。

こういう楽しみ方は世界共通のようで、枚挙にいとまがありません。たとえばイギリスの有名な料理人・Jamie Oliverのyoutubeチャンネルではビールと料理の合わせ方の紹介をしていています。この動画では日本の常陸野ネストビールも出てきます。オイル漬けのオリーブにオルヴァルを合わせるとは意外でした。このペアリング紹介動画はシリーズ化して6本あるので気にある方は是非全部見てみてください。

アメリカだとBrewers Associationが活動の一環としてSavorというフードペアリングイベントを行っています。一流の料理人が腕をふるい、ビールと合わせて新たな味覚を発見する挑戦的な試みです。今年は5月15日に開催予定で、2月19日にチケット発売です。参加費は最低でも139ドルで、VIPチケットになると249ドル。安くはないですが、非常に気になります。

参考までに動画を貼っておきます。昨年のものが見当たらなかったので、一昨年のものです。

残念ながらもう無くなってしまったのですが、ニューヨークにはビールとのペアリングコースを提供してミシュランの星を獲得したLuksus(ルクサス)というお店もありました。家飲みだけでなくファインダイニングでの例もありますし、ペアリングには大きな可能性があると思います。今後研究が進み、よりビールライフが豊かになっていくでしょう。

しかし、です。

現状クラフトビールを提供している街場のお店でビールを注文する時にペアリングを勧められることがあまりないように思うのです。何故なのだろう?とずっと考えていました。なんだか勿体ないような気もしますし、ペアリングが起点になってクラフトビールを好きになるかもしれないから積極的にペアリングに取り組んでくれたらと思う次第です。

ペアリングとはどういうことかを示して具体的なアプローチ方法にも触れているこういうメニューは親切だなぁと感じます。CRAFT DRINKSで取り扱うオレゴン州のFull Sail Brewingのパブも料理それぞれに”Try with”と添えておすすめビールを必ず明記しています。実際飲んでみて合うかどうかはまた別の話ですし、飲み手の捉え方によって結果は様々ですが、グランドメニューがかっちり決まっているお店であればこういう方法もアリですよね。メニューで表示するかどうかはさておき、ビール屋さん目線で考えた場合ペアリングのおすすめは絶対にすべきだと思うのです。それには大きな理由があります。

「クロスセル」という言葉をご存知でしょうか?クロスセルとは通販業界などで使われる用語で、追加購入を促して客単価向上を狙うものです。飲食業でもよくある話で、たとえばハンバーガーショップでの「ご一緒にポテトはいかがですか?」というのもそのひとつ。ファストフード店だけでなく、居酒屋なども当たり前のように行っています。

大事なポイントのひとつは押し売りと思われないように注意することですが、CRAFT DRINKSとしてはペアリングをおすすめすることは飲み手とお店双方がwin-winになる形だと思うのです。頼んだビールに合わせて美味しいお料理が食べられて単品で楽しむよりも更に良いなら飲み手は幸せです。お店側もお客様に高い満足感を提供しつつ単価が向上するから嬉しい。

お店側が積極的にならないといけない理由としてもう一点挙げるとすると、情報の非対称性があるということです。全国チェーンと違って、メニュー構成は全てのお店で異なります。細かい話をすれば、ビールの状態も提供温度も使用するグラスの形状も違います。つまり、提供されるビールは唯一無二。料理についてもそうです。飲み手は今日どんな料理があるのかも知らないし、細かな味付けのニュアンスも分からないから頼んだビールと何を合わせて良いか判断できません。飲み手側が事前に知ることが出来ないこれらの事象を理解しているのはお店だけです。その前提に立って考えると、ビールの注文時に「このビールであれば、前菜のxxxxがぴったり合います。ご一緒にいかがですか?」と一言添えることが出来るかどうかが重要だと考えます。この一言でかなり売上が変わってくるのではないでしょうか。

そのためには店長がスタッフトレーニングを行う必要があります。ビールに関しては銘柄やそのスペックを覚えるだけでは全く意味がなく、それをお店のどういう料理とどう合わせることで飲み手にどんな感動を与えられるかについて考え抜かねばなりません。試飲、試食とはそういうものではなかろうか。

冒頭で紹介した「#ビールめし」もそうですし、webで拾えるペアリングに関する情報がかなりあります。クラフトビール専門店にわざわざ足を運ぶ人はそもそも美味しいもの好きであろうから、無料公開されているペアリング例を超えるものを提供できないと満足度は上がらないのではないでしょうか。悪くないとか、まあまあ合うという程度ではなくて、ドンピシャの組み合わせには間違いなく感動するでしょう。つまり、「飲食店だからこそ提供できる高精度のペアリング」が提供すべき価値なのだと思うのです。同じことを飲み手の立場から言うと、「家での再現性が全くない、非日常感満載の高精度のペアリング」を求めているような気がしてなりません。もっと言えば、その高精度のペアリングにはロジカルな組み立てがあるはずで、それを言語化出来ると説得力が増すように思います。

へー、なるほどねぇ。さすがだわ

と言わずにはいられないペアリングに出会ってみたい。そこから更にクラフトビールの魅力が広がっていく気がして、ワクワクするのです。