Pastry Stout(ペイストリースタウト)

クラフトビールの評価サイトを眺めてみると相変わらずIPAが人気なのですが、実はその裏でビアギークの間ではスタウトが非常に人気です。緩い、度数の低いものではなくて、濃くて強いものの方が高得点を取っているようです。Imperial Stout(インペリアルスタウト)はその最たるものでしょう。バレルエイジしたり、副原料を入れたりして、どんどんフレーバーも濃くなってきているような気がします。

スタウトと一口に言っても、世界には色々な種類があります。「BJCP(Beer Judge Certification Program )2015年版」に準拠すると、アイルランド発祥の「Irish Stout(アイリッシュスタウト)」に始まり、「Irish Extra Stout(アイリッシュエクストラスタウト)」、ブリティッシュスタイルとして「Sweet Stout(スイートスタウト)」、「Oatmeal Stout(オートミール スタウト)」、「Foreign Extra Stout(フォーリンエクストラスタウト)」など。アメリカだと「American Stout(アメリカンスタウト)」があり、「Tropical Stout(トロピカルスタウト)」というものもあるそうです。これについては試したことはないけれど、とても気になります。

これに加えて、まだBJCPには掲載されていないけれども押さえておきたいものがあります。今後確実に整理して記述されるであろうスタウトが「Pastry Stout(ペイストリースタウト)」です。

ペイストリーとは菓子パン類を指し、甘くて濃くてリッチな、お菓子のような味わいのスタウトを総称してそう呼んでいます。スタウトの焦げたニュアンスやモルトの甘みをまとめ上げ、茶色もしくは黒っぽいお菓子、たとえばブラウニーのようなイメージに近づけるものが多く見られます。最近だともっとイメージを拡張して様々な原料を組み合わせ、サンデーやカップケーキ、チーズケーキやチュロスなどを思わせるものなども出てきています。日本で手に入るものだとomnipollo (オムニポロ)やMikkeller (ミッケラー)のものが挙げられますので、見つけたら是非一度試してみてください。

バレルエイジして度数も10%を超えるものも珍しくありませんし、甘さも強いので一人で瓶1本飲むのはなかなかしんどいかもしれません。しかし、粉と脂と糖分にまみれたジャンクなお菓子はやっぱり何だかんだ言って美味しいよね、ということなのだと思います。高カロリーなものって背徳的で旨いんですよ、やっぱり。「甘さは旨さ」ということなのです。

人気の理由の1つとしてアメリカの方にとってはペイストリースタウトは幼少期を想起させる一種のノスタルジーがあるのではないか、という指摘もあります。

Pastry Stout: Drinking Liquid Nostalgia

私はアメリカ人ではないし、アメリカで育ったわけではないのでノスタルジーを感じるかと言われると何とも言えないのですが、それらのビールには子供の頃食べていたビックリマンチョコとかヌーボーとかああいうお菓子の風味は強く感じ、その延長に文脈が続いているのだろうとはっきりしたイメージを持ちました。国や文化は違えども、分かる部分があるのです。クラフトビールは世界に通じていて、ある意味共時的なのでこういう感覚は国境を超えて共有されるのかもしれません。

ドライなIPAがヘイジーIPAへ移行するにつれ甘みを許容しミルクシェイクスタイルに発展するのと似て、スタウトも強い焦げ感によるフィニッシュのドライさよりも甘みを伴ったリッチネスに寄ってきています。非常に興味深い傾向ではないでしょうか。日本でペイストリースタウトがどれほど許容されるかまだ分かりませんが、今世界中で盛んに実験されている面白いものだと思います。ビールを愛する皆様、是非覚えておいてください。

近年日本国内のブルワリーが非常に増えて追いかけきれなくなっています。日本のブルワリーで美味しいペイストリースタウトを醸しているところがあれば是非教えてください。