中身に負けないカッコ良さ、見た目に負けない説得力
少し前の話です。仲間の1人がこんな話をしてくれました。
知人がロンドン土産に買ってきた缶ビールはBrew by numbersだったんだよね。
敬愛するデザイナーが手掛けていることが手に取るきっかけだったそうだが、見た目だけでなく中身も旨い。
こういうのなんだとやっぱり思ったよ。
ご存じない方もいるかもしれないので、Brew by numbersの缶をご紹介しておきましょう。むちゃくちゃカッコいいです。ビールそれぞれに番号が振ってあるのもミニマルな感じがするし、なんだかこう、クールな印象がある。公式instagramアカウントをぜひ見てみてください。この統一感のある写真群は私のような素人が見ても圧巻。
クラフトビールが流行ると、絵描きが忙しいと以前書いたことがあります。リブランドするべき?でもパッケージデザインのことに触れました。クラフトビールにおいて美味しいことが大事なのは間違いないのですが、どういう世界観をビールを通じて表現していくかという視点も非常に重要です。ロゴやネーミングもそうですし、パッケージデザインもこだわるべきポイントの一つでしょう。ブランドとしての一貫性や世界観、美意識や志向している方向性の提示という意味において上記に挙げたようなものを軽視していては消費者、飲み手に感動が届かない。クラフトビールという名の麦芽発酵飲料を飲んだのであって、高いUXを生んだのではないということになってしまう。数多ある中から選ばれたにもかかわらず、one of themとして認識されてしまうのは勿体ないとつくづく思うのです。
「中身のビール自体がちゃんと旨い」ことが前提であり、その上でその品質の高さを伝える手段としてのヴィジュアルにもこだわるのが現代クラフトビール産業の最前線です。飲み物として成立している上での更なる表現、と言っても良いでしょう。中身に負けないカッコ良さがこれからますます評価されるし、見た目に負けない説得力がビールにあれば正しくバズると思います。
最後に一つだけご紹介。
The Kernel(ザ カーネル)という素敵なブルワリーがあります。ロンドンのちょっと外れの、高架下で醸しています。最近はカラフルなものに多少変わったようですが、ずっとラベルは藁半紙に似た安っぽい茶色の紙が一枚貼り付けてあるだけでした。印刷も良くなくてところどころ掠れていたりもします。華美なところは一切なく、飲み手におもねるようなものもない。でも、一杯カーネルを飲んだ後、瓶を手に取り眺めていると何かが感じられる気がした。多くの競合に埋もれないよう、その中で目立つ為に装飾的になりがちだけれども、逆にシンプルを極めることで存在感が出るのもまた面白いものだ。
デザイナーとこれからのビールの有り様について語り合ってみたい。何か突破口が見つかるかもしれない。