【雑記】初めてのクラフトビールに付き合った時の話
なんか、マスカットみたいな香り!
Mちゃんはそう言った。うん、イイね。
しばらく前の話なのだけれど、何かの参考になれば嬉しいなぁと思って書いてみることにします。特にオチも無い話ではあるのだけれど。初めてクラフトビールに触れる機会に立ち会った一つの事例として適当に読み流して頂けたらと思います。
Mちゃんは何年か前にビールとは全く関係なく知り合った人で、おそらく30歳くらいだろうか。まだ20代かもしれない。小柄なかわいらしい女性だ。出先の仕事、まぁ飲み会とも言うが、それから帰る途中にたまたま久しぶりに会うことになりました。じゃ、合流してもう一軒飲みに行こうという話になりまして。で、せっかくだからクラフトビールを飲もうとお店に入ったのでした。
私はすでに一通り飲んでいたので〆にevil twinのインペリアルスタウトをちびちび飲むことに。(これは美味しかったです。飲み疲れていたのか、飲み干すまでに大分時間はかかったけれど、温いくらいが丁度良い。)
何か選んでほしい
というリクエストがあったので「じゃぁ、そうしようか。普段お酒は飲む?どんなのが好き?」と色々話を聞くところから始めました。
ビールは飲むけれど、何でも良い
なんだかんだでカルーアミルク好き
居酒屋ではハイボールが多い
基本的に何かつまみが欲しい
ダメなお酒は多分ないけれど、正直よく分からない
・・・なるほど。
・・・ん?なるほど??
それなりに色々とヒアリングしたわけですが、この情報じゃ全く役に立たないな、こりゃ。さてさて、どうしたものか・・・インペリアルスタウトをちびちびやりながらぼんやり世間話でもしようと思っていたのに。あーあ、強制的に仕事モードにさせられてしまった。仕方ない、頑張りますかね。
一旦状況を整理しよう。
Mちゃんもすでにそこそこ飲んでいるし、時間的にも飲めるのは1杯ないし2杯だろう
お酒は何でも飲むが、特にビールに思い入れはない
自分の好みや気分の言語化には慣れていないと思われる
うむ、そういうことだな。で、ここで私が採るべき戦略はこうだ。
〆にもなるが、もう一杯!と言われても大丈夫な絶妙な度数
クラフトビールビギナーなので、「わー!すごい!!」と言わせる非日常的な派手さも欲しい。(重くなくても良いが、アロマやが特徴的だったり余韻がリッチな方がベター)
「とりあえず美味しかった。でも、そう言えば飲んだヤツ憶えてないな。アレって何だっけ?」とならないように記憶に残る強めのストーリーが欲しい
2秒ほどでこんなことを考えました。出来ればこの一杯でクラフトビールに対して一気に興味を持って欲しいわけだし、責任重大だ。冷蔵庫に並ぶビールを眺めながら条件に合いそうなものをチョイスしたわけです。
手前味噌ながらFull Sail BrewingのAtomizer IPAにしました。高すぎず低すぎずの7%で、味わいも折り紙付き。自分自身で扱っていてウンチクも話せるし。うん、我ながら良いチョイスじゃなかろうか。
静かに注ぎ、手渡す。「まずは香りを嗅いでみて」
なんか、マスカットみたいな香り!
Mちゃんはそう言った。うん、イイね。マスカットではない気がするけど、まぁそれはこの際どうでも良いや。ポジティブに感じてくれたのなら充分だ。
その後、超音波当ててホップの香りを出すとか、オレゴンの老舗なんだよとか、今年品評会で優勝したIPAだよ、などなど。「マスカットっていうか、んー、ちょっとトロピカルな感じかな?なんだか良いよね、こういうの。」とフォローや修正もしつつ、フルセイルについてのあれやこれやをお話したわけです。
話題はいつしか家族で旅行に出掛けたことや大好きなJリーグのチームのことになり、ビールの時間は早々に終わってしまった。所詮ビールは人が飲むため、楽しむためのものであってあくまでも中心は人間だ。素敵な人と素敵な時間を過ごすためのスパイスみたいな役割で、無いと寂しいがそればかりになってしまっては成立しない。微妙なさじ加減が大事なのである。
結局足りなくてもう一杯飲むことになった。ホップつながりということで、次はMikkellerのHazy DIPAを。彼女いわく、甘いけど苦くてなんか美味しいらしい。うん、良い笑顔だ。その調子だ。話の腰を折りたくなくて私はビールについてはほぼ何も言わなかったけれど、たぶんそれで正解だったんだと思う。
帰り際、彼女はFull Sail BrewingのAtomizer IPAの瓶をカウンターに載せ、携帯を構えた。
写真撮るの?
はい、これ美味しかったので
憶えた?
忘れないように
そうか。きっと苦い経験では無かったのだから今日のところは良しとしよう。初めてのクラフトビールは成功だっただろうか。ぼんやりそんなことを考えながら帰路についたのでした。
あれからMちゃんにはまだ会っていない。あの時撮った写真を一度くらいは見ただろうか。それを敢えて尋ねるなんて野暮なのは承知しているけれど、訊いてみたくて仕方ない。この場合、成功も失敗もその定義や条件がはっきりしていないから私のしたことをどう評価していいのか自分でもよく分からない。答え合わせの出来ない事柄はとても難しい。