日本の麹がビールを変えるか
Craft Breweing & Beer Magazineから非常に興味深い記事が出ました。サワーエールを醸造するのに日本の麹が有効だというのです。
そもそも麹とは何でしょうか?wikipediaで拾ってみます。
麹とは、米、麦、大豆などの穀物にコウジカビなどの食品発酵に有効なカビを中心にした微生物を繁殖させたものである。コウジカビは、増殖するために菌糸の先端からデンプンやタンパク質などを分解する様々な酵素を生産・放出し、培地である蒸米や蒸麦のデンプンやタンパク質を分解し、生成するグルコースやアミノ酸を栄養源として増殖する。
麹は日本酒に利用されるのはよく知られています。醤油や味噌にも使われ、私たち日本人には馴染み深いものです。その麹にも幾つか種類があります。黄麹は味噌、醤油、日本酒、酢、みりんにも使用されるもので、黒麹は主に沖縄の泡盛に、そして白麹は九州の焼酎によく用いられます。今回記事で取り上げられているのは焼酎に使われる白麹です。
まず本文で指摘されているサワーエールにおける白麹の有用性です。
when you add koji into the mash of, say, a Berliner weisse, it will dramatically cut the time needed to properly kettle sour a beer.
“You talk to so many brewers who pitch lactobacillus (sometimes yogurt) on Friday, let it grow all weekend, producing lactic acid, and then come back on Monday to boil the wort,” says Bellomy. “With test brews that we’ve done with white koji, if you make it 20 to 25 percent of your grain bill, you could make a sour beer in a standard 1-hour mash time.”
たとえばベルリナーヴァイスのマッシュに麹を加えるとサワーエールを適切に醸すのに必要な時間が劇的に短縮されます。金曜にラクトバチルス(乳酸菌)を投入し、週末まるまるかかって繁殖して乳酸を生成しました。そして、月曜に戻って麦汁を煮沸しました。こういうブルワーがたくさんいます。」とベロミー氏は言いました。「グレインビルの20〜25%を白麹にすれば1時間のマッシングでサワービールが出来上がるでしょう。」
乳酸菌によって酸が生成されるのに通常数日かかりますが、白麹を使うとなんと1時間で済んでしまうというのです。
“White koji already contains the citric, lactic, and succinic acids, which impart a beautifully clean acidity to the beer,” Bellomy says.
To demonstrate he gives the example of a Berliner made mostly with Pilsner malt, a tiny bit of wheat, and 25 percent white koji and later fermented with neutral German ale yeast. It comes out at 3.2 pH after just an hour mash.
「白麹にはクエン酸、乳酸、コハク酸がすでにあり、それがビールにクリーンで美しい酸味を与えます。」とベロミー氏は言いました。
それを示す為にベルリナーヴァイスのサンプルを頂きました。これはピルスナーモルトが大半で、少量の小麦、そして25%の白麹で作られ、ニュートラルなドイツのエール酵母で発酵させたビールでした。1時間で3.2pHまでになりました。
・・・早い、とにかく早い。醸造関係の方々は驚かれたでしょう。早いと言われるケトルサワーが白麹によって更に早く仕上がるというのです。本文最後でも指摘されていますが、小規模な醸造所ではかなり有効な手段になりそうです。とはいえ、まだ原料を変えたりしながら試行錯誤をしている最中。白麹がどういう環境のマッシュで一番働くのか、人間が美味しいと感じる風味を出すにはどのような条件が必要かなどを多くのブルワーが試しています。今後の実験・研究の結果が待たれます。
日本の麹が注目されていることは非常に嬉しく思います。しかし、海外からの逆輸入テクニックではなく、日本の麹なのですから是非日本でビールに応用するメソッドを確立して世界に発信して欲しいと強く願います。日本の風土による必然、歴史的必然というものがあるはずで、そこから学び考え抜いたものこそが日本が世界に打って出るための最終兵器になるのだと思います。その時、麹はきっと主役になることでしょう。日本の麹がビールを変える、かもしれない。
先日ビールに麹を応用しようと挑戦したビールを試しました。下記写真4枚目の一騎醸造 百姓せぞんです。栃木県日光のMurmurとのコラボレーションで作られた限定品で、今はもう飲めないかもしれませんが非常に意欲的な作品です。
一騎醸造ではブルワリーと協力してこれまでに多数の麹を使ったビールをリリースしています。Kakegawa Farm Brewingと「コウジノチカラ」を、沼津クラフトと「桃源郷ピーチセゾン」、TY Harbourと「麹ブリュットセゾン」など。今後のリリースにも注目していきたいと思います。随時情報が公開されているので一騎醸造公式ブログも是非ご覧ください。今後も色々と醸してくださることでしょう。麹を使ったビールのリリース、楽しみにしています。