キーケグは逆さまにする必要があるのか?
「キーケグって逆さまにして使うものなんですよね?スペースの都合でうちでは無理ですよ」
上記写真のようなイメージでしょうか(これは充填時の風景ですが・・・)。確かにこんなことを聞かれたことが何度もあります。いえいえ、そんなことはありません。いつからか変な噂が流れているようなのですが、普通に置いてご利用ください。
たとえば、キーケグを使用しているビール祭りの風景を見てみましょう。
皆さん正位置に置いて普通に使っています。実際それで全く問題ないですし、キーケグのメーカー側も逆さまにしてくださいとは言っていないのです。
逆さまに置いて使用するのはこういう理由があるそうです。
泡が立ってうまく注げないので、逆さまにして泡を上に持っていき泡立っていない下側から抽出するとうまくいく。
確かにそう言われればそうです。しかしながら、対症療法として逆さまにする前に根本的な原因、つまり「何故キーケグ内部で泡が立つのか?」についてちょっと考えてみましょう。
ビールをはじめとする発泡性の液体は温度が上がると溶け込んでいるガスが遊離しやすくなります。かけている圧力よりも液体からガスが出ようとする力の方が強いから泡立つわけです。理屈上、それを外からの圧力でしっかり押さえ込んでやれば泡は立たないはずです。この考え方は通常出回っているステンレスケグと全く同じで、中身の液体の状態と釣り合いが取れるequilibrium pressure(平衡ガス圧)が分かれば良いとうことになります。
そこで重要な情報が「ガスボリューム」。平たく言うと、CO2が液体に対してどれくらい溶けているかを表す数値です。(単位の説明は長くなるのでここでは割愛し、また改めて書きたいと思います。)たとえば、私どもCRAFT DRINKSで来年から扱うFull Sai Brewing(フルセイルブルーイング)のフラッグシップビールであるアンバーは2.3 CO2 Volもしくは4.6 g/lです。
ブルワリーの責任者から公式に数値を出して頂きましたので、これは間違いないでしょう。上記で温度が上がるとガスが遊離しやすくなると書きましたが、それに合わせようとすると平衡ガス圧は高くなります。逆に低温であれば圧力も低くなります。web上に平衡ガス圧 のチャート表などがあるので一度ぜひ見てみてください。フルセイル アンバーは2.3 CO2 Volですから、計算すると6℃で0.6bar、10℃で0.9bar、20℃で1.7barが釣り合いが取れる圧力であると分かります。
通常出回っているステンレスケグの場合、液体にガスが直接触れるので温度によっては高圧をかけると液体にガスが溶け込んでしまいます。それに対してキーケグの場合は袋に包まれていて液体とガスはそれぞれ完全に独立していますから溶け込みはありません。計算した平衡ガス圧よりも高くかければ理屈上問題ないことになります。
なーんだ、高めにかければいいのかぁ
まぁ、ざっくり言えばそうなるのですが、ちょっと気にしないといけない点があります。かける圧力が高くなるとそれに比例して抽出スピードが上がります。注ぎ口から出てくる勢いが強すぎて上手に注げないという現象が起こるのです。計算した平衡ガス圧通りに圧力をかけて抽出スピードが早すぎる場合はホースを伸ばすなどして勢いを弱め、上手に注げるバランスにしてあげましょう。液体のガスボリュームと温度から平衡ガス圧を計算し、勢いを確認しながらご自身のお店でぴったりのセッティングにしてください。
・・・ということは、ビールのガスボリュームが分からなければサーバーのセッティングは出来ないってことじゃないの?
と思われる方もいらっしゃるでしょう。はい、そうです。ですから、ガスボリュームが分からない場合は輸入会社や醸造したブルワリーに問い合わせることをおすすめします。ちなみに、各ビアスタイルの目安になるガスボリュームはcraftbeer.comのこちらのページで調べることが出来ます。参考になさってください。
※注意 接続前に揺らしたり、何かにぶつけたりしていると液体が暴れていますから計算通りの圧力をかけてもきれいに出てこない場合もあります。気をつけて取り扱ってください。仮にぶつけたりした場合は冷やして一晩置いてから使うことをおすすめします。