本当のリアルエール

「本当のリアルエール」。こう書くと何だか違和感があるのですが、本当なのです。

ビアパブに行くとハンドポンプがカウンターに取り付けてあることがあります。メニューに「××××のリアルエールバージョン」などと書いてあるのを見かけたことのある方もいらっしゃるのではないかと思います。とはいえ、「リアルエールって?リアルじゃないエールは偽物なの?」と思われた方も少ないないはずです。まだまだリアルエールというものが認知されているとは言い難いとCRAFT DRINKSでは考えています。

去年のことです。都内のクラフトビールを多数揃える飲食店でリアルエールがメニューに合ったので注文しました。スタッフの女の子に「同じ銘柄でリアルエールとそうでないものがありますが、リアルエールだとどう違うのですか?」と質問したところ、「ハンドポンプで出すんです!」とニッコリ笑って答えてくれました。「普通のケグでガスはつながっているのですか?」「はい、そうです!」あ、そうですか、なるほどなるほど。苦笑いするしかないのです。

そもそもリアルエールとは何でしょうか?イギリスのビールに関する団体CAMRA(Campaign for Real Ale、カムラと読む)がこう定義しています。

What is real ale?
Real ale is a beer brewed from traditional ingredients (malted barley, hops water and yeast), matured by secondary fermentation in the container from which it is dispensed, and served without the use of extraneous carbon dioxide.
リアルエールとは?
リアルエールとは麦芽化された大麦、ホップ、水、そして酵母という伝統的な原料で醸し、抽出する容器の内部で二次発酵することで熟成するビールのことで、抽出時に外部から炭酸ガスを与えずに注がれるもの。

酵母を除去したものではなく、生きたままの状態です。そして、その進み具合を見極め、提供されます。炭酸ガスで押して抽出してはならないので、リアルエールではハンドポンプでの汲み上げが行われます。もしくは、高いところに容器を置いておいて、その自重で注ぐこともあります。以前詳しく書いたので、「カスクコンディションビールを飲みながら、〆鯖のことを考えた」も合わせて御覧くださいませ。

故に、ハンドポンプだからといってリアルエールではないわけなのです。それっぽいけれど、リアルエールではないリアルエールが結構あったりします。実はこの点についてずっと違和感を感じていました。

かつて東京・墨田区役所の脇でリアルエールフェスティバルというイベントが開催されていました。初期から通っていたのですが、泡が全然立たないのにこんなにも美味しいビールがあったのか!と衝撃を受けたことを今でも憶えています。リアルエールに関して言うと、クラフトビールが広まるにつれて少しずつ意味や意義が削がれいつしか大分カジュアルダウンしてきたように思います。大人数で行う伝言ゲームみたいなもので、巡り巡って「ハンドポンプで組み上げればリアルエール」という訳の分からない認識になりつつあるのではないか、と少々心配しているのです。

クラフトビールシーンの中に確固たる立ち位置でリアルエールというものがあって欲しいとCRAFT DRINKSは願っています。「ハンドポンプで組み上げればリアルエール」というような誤認は普及する間には必ず起こることであって、そのことに怒り狂っているわけでもありません。それは是正すれば良いのです。解消できる問題を一つずつ片付けていき、シーンをもう一歩先へと進めていきたいとCRAFT DRINKSは思っています。カスクという機材やセラーマンという人材の問題など、ひとつずつ。

そこで、CRAFT DRINKSは新潟県に行ってきました。両国の麦酒倶楽部ポパイ様が運営する醸造所「ストレンジブルーイング」です。ストレンジブルーイングのゴールデンスランバーというペールエールをキーケグに詰めに行って参りました。

入り口にはかっこいいイラストが。

Cool painting isn’t it? #craftbrewery #strangebrewing #cool #painting

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キーケグに詰めるには専用カプラーを繋がなくてはならないので、その準備。サンキーのものを外します。

Preparation for filling beer into keykeg. Change sankey to keykeg coupler. #stragebrewing #keykeg #filling #preparation

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充填には内径12mmがぴったり合うので、ホースも繋ぎ直しました。

Connect the hose with beer tank. #connect #hose #tank

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キーケグ内部に空気を充填しないよう、一番上までビールを持ってきます。バルブの微調整が難しいところです。

Let the beer up to the top. Preparation is done!! #coupler #keykeg

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キーケグを逆さまにセットし、カプラーを取り付けます。この時点ではまだバルブは開けていません。

Set the coupler on keykeg and put it upside down. Not open the valve yet. #keykeg #filling #craftbeer #valve #upsidedown

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内部のガスを少しずつ抜きながら圧力を平衡させて充填します。

Inner bag getting big!! #craftbeer #keykeg #filling

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出来上がり!

Finish!! #keykeg #finish

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実はキーケグはCAMRAも認めるリアルエールに使える容器なのです。ケグの内部で二次発酵が可能ですし、炭酸ガスがビールの溶け込むこともない。また、高いところに置けばグラビティで出すことも可能です。古いCAMRAメンバーの方は木製樽でないとダメ!と言いそうですが、公式に「キーケグでリアルエールはOK」と認められています。ソースはこちらを御覧ください。ちなみに、今回はあくまでも実験なので酵母は粗く抜いた状態で補糖せずに詰めています。一次発酵がちゃんと済んでいて残糖はほぼ無いので二次発酵が激しく起こることはありません。

さて、数日後このキーケグをハンドポンプに繋ぎ、ちゃんと注げるか麦酒倶楽部ポパイ様にて実証実験を行いました。

ハンドポンプに繋いでいるので当然ガスは接続していません。引き上げて注いだ分だけ減るわけですが、キーケグ内部にガスが置換されていかないので、その都度安全弁を開けて外から空気を補給します。カプラーをばらしても再度組み上げられる方は安全弁のピン自体を抜いてしまうと更にやりやすくなります。(これはメーカー推奨の方法ではありませんので、自己責任でお願い致します。)

ハンドポンプで注いだものがこちら。素晴らしいクラリティ。元々カーボネーションしているのでスパークラー無しでも泡立ちますが、少々時間を置いて落ち着くのを待てば全く問題なし。

Nice clarity!! #popeye #craftbeer #goldenslumber #paleale #yummy #handpump #keykeg

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ということで、「キーケグ×ハンドポンプ」は大成功。記念すべき第一歩ではありますが、ここからが本番です。「キーケグ×ハンドポンプ」が実証されたので本場CAMRAも認める本当のリアルエールへと進みます。ケグ内二次発酵させたビールをキーケグからハンドポンプで汲み上げるのです。金属製カスクが無くても、いつもの機材でリアルエールは提供出来るのです。アメリカンスタイルのホッピーなビールが大変人気ですが、低アルコールでモルティな緩いビールをリアルエールの形で愉しむことも素晴らしいと思います。まだ少し先にはなりそうですが、このプロジェクトは絶対に成功させたいと思います。

ご協力頂いた麦酒倶楽部ポパイ様、ならびにストレンジブルーイング様に心よりお礼申し上げます。誠にありがとうございます。