クラフトビールビジネスの難しさを痛感する出来事
昨夜、こんなビックリするニュースが流れてきました。
BREWBOUND Smuttynose to be Auctioned Off Amid Missed Growth Projections
創業から24年の老舗ブルワリー、Smuttynose brewing companyが経営的に厳しくなっていて、身売りの方向だそうです。企業売却のサイトにもすでに条件などの情報が出ています。醸造所からの公式発表もありますので、合わせてご覧ください。記事によると、20年伸び続けていた同醸造所ですが、ここ数年の急速なシーンの変化でここ2年間は最大製造能力の半分しか使っていなかったそうです。
確かにここ数年のアメリカンクラフトビールシーンのスピードは異常なほどでした。ブルワリーの数も6000軒を超え、ますますその勢いは増すように見えますが、すでにクラフト大手各社の伸びが鈍化してきていることが報じられています。ビールは設備産業の面が強く、タンクをはじめとする設備がないと生産が出来ません。設備の規模によって最大売上が決まってしまう。重要なのは設備の稼働率と生産したビールを販売していく力なのですが、評価の高い老舗ブルワリーであっても急激なビジネス環境の変化の波に飲み込まれていってしまうのかもしれません。
非常に示唆的な一文があります。ブルワリーの閉鎖や倒産はシーンの不健全さを表しているのではないとし、とある識者は続けてこう答えています。
“It’s a sign of maturity,” he said. “I don’t think it’s a sign of massive downturn or fallout. I just think as industries get more competitive, it means that participants are likely to be edged out by competition.”
「成熟の証です。」と彼は言いました。「崩壊の兆しだとは思いません。業界に今まで以上に競争が起こっているということだと思います。それはつまり競争によってシーンの参加者がふるい落とされることがあるということだ」
指摘の通り、アメリカにおけるクラフトビール産業は成熟期に入ったのでしょう。業界内の競争よりも隣接する他ジャンルのお酒、たとえば近年伸長著しいワインやウイスキーなどがこれからはコンペティターと認識し対抗していかねばならないフェーズに突入します。国内マーケットだけでなく、海外輸出も当然視野に入ってくるでしょう。”drink local”や”hyper local”などと言われる地元へのフォーカスも大きく報じられていてその重要性は多くの人が認めるところですが、ミクロ視点だけでなくマクロ視点も合わせて持っていないと厳しい状況になると思われます。
3月になると日本の国税庁から酒のしおりというお酒に関する統計情報が出てきます。現在ブルワリーの開業ラッシュで恐らく発泡酒免許の免許場がグッと増えていることでしょう。日本のシーンも活気づいていますが、恐らくまだ成長期のど真ん中。クラフトビールは今後ますます広がっていくと思います。とはいえ、物流費も上昇傾向で遠くない将来消費税の増税も待っていますから、こういう事例もあるということも頭の片隅に入れておいて損ではないと思います。