クラフトビール自販機は成り立つだろうか?

クラフトビール自販機は成り立つだろうか?

とあることがきっかけで、こんなことをふと思いました。お店は開店しているのだけれどスタッフは誰もおらず、買えもしないし質問も出来ない状態でほおって置かれた、という何ともモヤモヤする友人の話をつい先日聞いたのがきっかけです。

だったら、極端ですが、有人サービスは一切排しして自販機を導入してはどうだろう?と考えました。アメリカのものを中心にかなりの数のクラフトビールが缶で買えるようになった今ですから、こういう考え方も案外無謀ではないのかもしれません。ずらっと並んだ自販機から缶のクラフトビールを好きなだけ買えるし、人と面倒な会話をすることもない。お店側もスタッフを配置しないでいいので人件費もかからない。非常に合理的。

とはいえ。

たぶん無理ですね。クラフトビールは世界中で作られていて、ここ日本にもいくつ輸入されているのか把握できないほどになっています。その種類の多さが一つの魅力ではありますが、多すぎてラベルを見ただけではよく分からない。そのギャップを埋めるにはどうしても人間の力が必要となる。

自販機で買うには幾つもの前提があるわけです。以下の2つが少なくともないと成り立たない。

お客さんは「広くクラフトビールに対して知見があり、並んだものから自分の好みに合わせて選び取る力を持っている」こと
お店側は「客層に合わせた幅広いラインナップを用意でき、それを伝える能力がある」こと

今飲みたいものを具体的にはっきり自分で分かる人はなかなかいません。「何かいい感じのが飲みたいなぁ」くらいが普通で、少なくとも「今日は何が何でもXXXXのセッションIPAが飲みたい!」とブランドと銘柄まで指定して考えたことは自分の経験では殆ど無い。私の場合、馴染みのお店に行けば「で、今日何かない?」と尋ね、ゴソゴソしながら持ってきてくれた候補の中からピックアップするのがいつものパターンです。恐らく世間一般の人よりは多くクラフトビールを飲んでいるとは思うけれど、当然全てを知っているわけでもないから「で、今日何かない?」と尋ねることに迷いはない。クラフトビールが好きなので、「分からないから諦める」のではなく「分からないから訊く」のです。

自販機には「相手に合わせて伝えるという能力」、つまり「接客」がないから、結果的に美味しいものを買ったとしても気持ちの上での満足感はもしかしたら少ないのかもしれません。未知のものにトライしたいのだけれど失敗するのは嫌だというのが人情というもの。自販機は購入者のリテラシーと気分に依存するのでまだまだ普及はしないと思うわけです。妙な言い方ですが、自販機で普通に買えるようになったらもはやそれはクラフトビールではない、とも思ったりもしますが。

クラフトビールにおいては一見面倒くさいように見える人的コミュニケーションを介した方が美味しいものに出会えるスピードが高まると思っています。一言で言えば、対面販売で買うべきもの。別の言葉で言えば、語られないと伝わらないもの。面倒くさいなぁと思うより「知らない世界を知ることが純粋に楽しい」という気持ちが持てたら、クラフトビールの楽しさが何百倍にもなるのではないかと。

逆に考えると、提供する酒屋さんは少なくとも棚に並んだクラフトビールのことを愛情を持って語れないといけないとも思います。目をキラキラさせながら来店して下さったお客さんに期待以上のクラフトビールをご紹介することが出来たら最高ですよね。

ダラダラ書きましたが、とりあえず自販機は当面無理でしょう。人によって語られることで伝わるのだから。