糖質ゼロの文脈について考えた

気になっていたので、先日飲み比べてみました。糖質ゼロのビールです。

様々な媒体で取り上げられていたのでご存じの方も多いと思います。すでに多数報じられているのでここでその詳細をご紹介することは省きますが、気になる方は公式ウェブサイトをご覧になってください。amazonでも買えます。

さて、その作り方ですが「新・糖質カット製法」と題して、下記のように説明しています。

麦芽の選定から見直し、キリンビールが培ってきた仕込み技術・発酵技術を進化させ、ビールでありながら糖質ゼロを実現

当然自社で長年研究開発してきた独自技術のことなので、具体的に何をどうするかは一切書かれていません。「何かをどうにかして糖質をゼロにしたのだなぁ」ということくらいしか分からないわけです。

しかし、海外の媒体向けにはこのような説明がなされています

Takashima explained that the brewery refined its carbohydrate decomposition technology to achieve its zero sugar status.
“The carbohydrate decomposition technology controls the enzymes that break down the starch so that they work properly and make the carbohydrates into a size that is easy for the yeast to ‘eat’ and (Kirin) has also established a fermentation technology that allows the enzymes to break down the starch more efficiently.”
“By using more stringent controls and energetic yeast than normal beer, we are able to reduce the amount of sugar left over and achieve zero sugar.”

なるほど、なるほど。「①酵素を使用して糖を分解し、②通常のビールよりも厳格な管理をして、③高エネルギーの酵母で発酵させる」らしい。酵素の話は日本国内向けに出てこなかったなぁと思いましたが、やはり酵素で単糖を作り出し酵母でそれを食い尽くすという予想は概ね間違っていないのでしょう。もちろんモルトや酵母の選定、マッシング、酵素添加のタイミングなども非常に重要ですから単に酵素を使えば良いという話ではありません。実際にはなかなか真似の出来ないすごい技術なのだと思います。

で、気になる味わいですが、実際飲んでみるとスタンダードに比べて細くてシャープ。味わいも弱め。全体的になんとなくBrut IPA(ブリュットIPA)を想起させるものでした。米やコーンスターチを使わずにこういう感じというのは何だか新鮮です。うまく伝えられないのですが、アクセルとブレーキを一緒に踏んでいる感じ、というか。きっとこういうものがハマるシチュエーションもあるだろうなぁと思います。飲みやすい反面、淡白なのでつまらないという意見が出てくるのも分かるのです。ここは人それぞれ判断が分かれることでしょう。皆様のご意見を是非伺いたいところです。

別の視点でも考えてみたいと思います。私が注目したのはカロリーの低さです。ビールは通常100mlあたり40kcalほどありますが、こちらは23kcal。むちゃくちゃ低いのです。これは画期的だと思います。アメリカでものすごく流行るかもしれない。

流行る可能性があると考えたのはアメリカのクラフトビールシーンにこんな流れがあるからです。

2018年後半くらいからでしょうか、少しずつ”Lo-cal”(ロー・カル)という考え方が主に大きめのクラフトブルワリーに浸透してきました。”Lo-cal”は”Local”(ローカル、地元)と”Low calories”(低カロリー)を合わせた造語です。せっかく飲むなら地元のものが良いよね、という考え方もクラフトビールファンには根強くあります。また、アメリカでは「ビールは飲みたいけどカロリーがなぁ、、、」と言う健康志向が強い人も少なくないそうで。それに合わせて地元のブルワリーで低カロリーで炭水化物も少ないビールが結構開発されているのです。

私が飲んだもので言うと、フルセイルブルーイングのSession Lightやデシューツのwowza!などがあります。日本には輸入されていませんが、Bell’sなんかにもありますね。概ね12oz缶1本で100kcalくらいに仕上げられていて、通常のものに比べて3割ほどカロリーが抑えられています。

 

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お酒として線が細いのは否めませんが、真の狙いはそこではないし、トレードオフになってしまう部分なのでしょう。これはこういうものとして捉えて飲み方を消費者側がアレンジすれば良いのだと思います。まぁ、日本で言うところのカロリーオフ的なものだと思いますが、そういうものがアメリカのクラフトビールの文脈にも出てきたのだなぁと思うと色々考えるところがありますね。

この点については日本はかなり進んでいると思うのです。機能性ジャンルではトクホのものもありますし。ここはポジティブに捉えてどーんと仕掛けてみるのも面白いのかもしれません。冒頭の糖質ゼロビールは100mlで23kcal、1本飲んでも80kcalほどです。”Lo-cal”の一群を更に下回るカロリーですし、テイストもアメリカのマーケットに合わせて微調整すればこういう文脈で受け入れられるのではないかしら。もちろん日本国内向けにもこの技術を使った他のタイプのビールも是非作って頂きたいですね。機能性、カロリーオフ系ジャンルに色々出てくると面白いと思うのでした。