仕事として飲むということ
新年度になり1ヶ月ちょっとが経ちました。フレッシュな社会人一年生の方々を街で見かけることが多くなりましたね。電車の中で一生懸命資料か何かに目を通している初々しい姿を見ると「うんうん、頑張ってね!」と心のなかでエールを送るのでした。クラフトビール業界にいらっしゃった方、一緒にシーンを盛り上げていきましょう!今後共どうぞよろしくお願い致します。
新社会人でなかったとしてもクラフトビールが好きでこの業界に転職してきた方もいらっしゃるでしょう。まだ転職していなくてもいつかクラフトビール産業に携わりたいと心のどこかで思っている方は少なくないと思います。そんな方にCRAFT DRINKSが今までの経験を元に一言。
仕事としてクラフトビールを飲むということは結構しんどいよ
ビールの詳細などはお伝え出来ませんが、先日まで仕事として同じビールを何日かかけて10L飲み続けていました。「一定の期間内での状態変化などを定点観測する」という作業をしているのです。一日1パイント〜2パイントくらいでしょうか。まずいお酒ではないので味わいに関して苦ではないのですが、舌と鼻と頭をフル回転させながら本気を出して飲むので正直疲れます。お風呂上がりに「ぷはーっ」と飲むビールとは対峙する心持ちが全く違うのです。
この時飲みながら考えているのは「旨い・マズい」ではありません。客観的に何がどういう状態か?ということに全神経を集中しています。オフフレーバーがあるのかとか、あるとしたら何なのか?とか。モルトとホップのバランスやアルコール感、マウスフィール等々。
更に「同じ液種の他の銘柄との品質的差と価格的差」も同時に考えます。いくら美味くても高すぎては手が出ないわけで、その相場観みたいなものとのすり合わせも行うわけです。
ここで終わりません。もっと先の話がありまして・・・まぁ、そこは秘密です(笑)
何はともあれ日々やたらに飲んでいるわけですが、「飲み会が好き」とか、「とにかくお酒を飲むのが好き」という方はこっち側に来ない方が楽しく過ごせるでしょう。これは断言します。何故ならば、仕事で飲むということは「アウトプットすることを前提に客観的に飲んでいる」からです。個人的な好みに合うかどうかは一切関係なく、今目の前にある一杯がどういう文脈でどのような立ち位置にあり、幾らが妥当なのかを言葉や数字で適切に表現するのが仕事と言い換えても良いと思います。そのアウトプットのクオリティこそが重要で、単なる感想では全く意味がありません。
この話は非常に重要だと考えています。お金や時間があって醸造家よりもよっぽど良いものをたくさん召し上がっている一般の方が多数いらっしゃることは重々承知しています。クラフトビールを生業としている人たちよりも旨いものをご存知の方がたくさんいるのも事実です。ただ、この視点があって常にそういう活動をしているかどうかが決定的に違うと考えています。あなたの美味しいが誰かの美味しいと一致する保証はないわけで、美味しいを共有するためにも発信者は受信者の分かる形でアウトプットするのが重要です。
その意味ではクラフトビールに携わるにあたってお酒が強い必要はありません。アウトプットすることを前提にちゃんとテイスティング出来れば問題ないと思います。とはいえ、仕事として飲むということは本当にしんどい。しんどいからこそ見えてくる愉しさもありますけどね。そういうギリギリの感覚がいつも心の中にあって、それを愉しめないと苦しいばかりではないかと思うのです。