ビール定義変更と缶チューハイの隙間のことを考えた

2018年4月1日より酒税法上のビールおよび発泡酒の定義に変更があります。麦芽比率が変わりますし、使用できる副原料が大幅に増えます。その変更に合わせて国内大手各社が新商品投入を予定しているのは既報のとおりです。

日経新聞web版にビール「かんきつ系」で個性勝負という記事が出ているので是非お目通しください。使用可能な副原料の簡単な表もついています。4月には大手各社からレモンやみかん類を使った商品が発売され、コンビニやスーパーなどに並びます。

ところで、RTDという言葉をご存知でしょうか?これはReady To Drink(レディートゥードリンク)の略で、「そのまますぐ飲めるもの」という意味です。パッケージを開けたらそのまま飲めるミックスドリンクを指します。以前“craft beer”の隣接領域のこと RTDについてという記事で詳しく書きましたが、RTDは具体的に何かと言うと、コンビニやスーパーでよく見かける「缶チューハイ」や「缶ハイボール」がこれにあたります。(本来はノンアルコールにも使用する言葉ですが、ここではアルコール入りのものに限定して使用することとします。)キリンの本搾りやサントリーのストロングゼロなど人気のRTDがたくさんあり、よく見かけると思います。

4月から大手が投入してくる新定義に対応した商品群は柑橘の皮やスパイス、ベリーなどの果物を使用したもので、分類上ビールですが度数やテイストはだいぶRTDと近くなり、その境目が曖昧になってくるのではないかと予想します。もちろん製法は全く違うのですが、ぱっと見た時に「クラフトビール」なのか「モルトをベースに作った高級RTD」なのか見分けにくいような気がするのです。まだ現物を試していないので何とも言えないのですが、、、

ということで、前例を確認すべくアメリカの大手クラフトブルワリーであるUinta(ウィンタ)のタンジェリン入りビールとグレープフルーツビールを飲んでみました。

さすがはアメリカの大手。フラッグシップのHop Nosh(ホップノッシュ)をベースに上手に組み上げていて、非常に美味しい。フィニッシュはしっかりと苦く、IPAらしさも充分に残された絶妙なバランスです。しかし、タンジェリンが特にそうでしたが、どことなくビールっぽい缶チューハイのようなニュアンスも日本人である私は感じました。どことなく缶チューハイのようなビールにも思えてきたり。美味しいとかまずいとかそういう話ではなくて、ビールと缶チューハイの隙間を攻めたら必然的にこういう論点が生まれるのでしょう。自身のクラフトビール観とブルワリー側の考え方の相違にいささか戸惑うのでした。

実際には新定義になってから飲んでみないと何とも言えないのですが、諸々の情報からこういう路線なのではなかろうかとCRAFT DRINKSは予想します。きっと今回の疑問は日本の大手ビール会社が何を以てクラフトビールとするかを一切表明しないまま「クラフトビールを作ります」と宣言していることから端を発しているのでしょう。定義や要件を示す前に何となく世間に雰囲気を作ろうとしているようにさえ見えます。だいたい350ml缶1本288円だそうですから、エビスやプレミアムモルトよりも高いわけです。それを「クラフトビール」というよく分からない謎の概念と雰囲気で納得させようとするのは何だか変だなぁと。美味しければ売れると思いますし、敢えて「クラフト」なんて言わなくても良いのに。クラフトという概念を値上げの口実にはして欲しくないなぁ、と思った次第です。

ビールっぽい缶チューハイと缶チューハイのようなビール。似ているようで、違うようで。

ちなみに、CRAFT DRINKSとして今回の定義変更は好意的に受け止めています。使用可能なものが増えるというのは良いことですし、税が下がるのもまた嬉しい話。いくらか原価を調整しやすくなったわけではありますが、ビールの税金が安くなりそうですが、値上げするブルワリーがあってもいいと思うのですという記事で下記のように書きました。中小のクラフトブルワリーは安くする必要は無いと思います。

価格の面で訴求しても大手には絶対に勝てないのですから、「とにもかくにも品質重視」でやるしかない。であれば、お値段据え置きにして品質向上することで消費者への質的還元が出来るのではないでしょうか。少なくとも私はこういう方向が正しい逆張りなんだと思います。安いより、美味しい方が嬉しい。

大局的にはこういう微妙な状況だからこそ、「これこそがクラフトビールなんですよ!」という強いメッセージが求められているような気がしてなりません。