街とビールについての一考 デンバーとカカアコ

勉強し直そうと思って久しぶりにスティーブ・ヒンディの「クラフトビール革命」を読んでいます。

 

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そこでふと「あぁ、そうか、これがジェントリフィケーションか」と気がついたことがあります。いきなり「ジェントリフィケーション」などという難しい言葉を使ってしまいましたが、これは「都市の高級化」を指す言葉です。1964年、ルース・グラスという社会学者の『Aspects of change(変化の側面)』という書籍で初めて使われた用語で、地理学や都市工学、社会学など多くの学問で使われるようになった考え方です。地域における居住者の階層の上位化とともに、建物の改修やクリアランス(再開発)の結果としての居住空間の質の向上が進行する現象のことであると説明されます。日本でもたくさん研究されているので気になる方は是非調べて見てください。

さて、「クラフトビール革命」では1980年代のクラフトビール勃興期における重要なブルワリーを幾つも挙げているのですが、その一つにデンバーのワインクープブルーイングがあります。この本は都市政策に関するものではないのでそういう視点はあまり盛り込まれていませんが、129ページにこうあります。

 デンバーの犯罪多発地域、ロワーダウンタウン(LoDo)にブルーパブを開業するという英断がヒッケンルーパー(筆者注 ワインクープブルーイング創業者の1人、ジョン・ヒッケンルーパーのこと)の目覚ましい政治キャリアのスタートとなった。この荒廃した倉庫地区はサウスプラット川から近いデンバーの旧市街に位置する。まず彼がやらなければならなかったのは、コロラド州議会にブルーパブを許可させるためのロビー活動だ。その後、コロラド州が全米一重要なクラフトビールの中心地になったことを考えると、当時の政策変更には大きな見返りがあったといえよう。(中略)ブルワリー開業の年に、デンバー市はLoDoを歴史地区に指定。一二七棟の建築物の保護を開始した。ヒッケンルーパーはまもなく自社ビルの上階にあるロフトアパートメントの一室に転居。クアーズ社のCEOレオ・カイリーが近所のプラチナ・ビルディングにに引っ越してきたのは、その数年後だった。
ワインクープ社はLoDo再開発の火つけ役となった。現在、このエリアはデンバーで最も賑わう歓楽街になっている。一九九六年にはプロ野球チーム、コロラド・ロッキーズのホームスタジアム「クアーズ・フィールド」が近隣に建設され、LoDoの再開発は最高潮に達した。

これはジェントリフィケーションそのものでしょう。ブルワリーやそこで生み出されるクラフトビールがジェントリフィケーションを起こすきっかけになった好例と考えるべきものだと思います。ビールには街に活力を与える力があるという証拠です。

私は専門家ではないので雑なまとめ方になるかもしれませんが、こういう流れなのではないでしょうか。

  • ①荒廃し、寂れてしまった場所に目玉コンテンツ(今回の場合はブルワリー)が出来ることで人が集まる
    ②それに伴って関連施設も増加してコンテンツが充実し、結果的に街全体が魅力的になる
    ③街の魅力増加に伴って地価、家賃が高騰して高級化が進む

もっと細かい成立条件があるのでしょうが、概ねこういうことだと思います。となると、地域活性化の起爆剤として日本でもブルワリーにもっと注目しても良いのではないだろうか。ブルワリーが起点にならずとも、街の魅力を上げる一つのポイントにはなると思うのです。

そんなことを考えながら思い出したのはハワイ・オアフ島にあるとある地域のことです。ここは間違いなくジェントリフィケーションが成功していて、そこにクラフトビールがばっちり組み込まれている。

Kaka’ako(カカアコ)地区はアラモアナ・センターからダウンタウン方面へバスで5分ほどの場所。数年前までは寂れた倉庫街だったのですが、大規模な再開発によってニューヨークのソーホーを思わせるアートの町に生まれ変わりました。実際に行ってみて感じたのですが、街の空気からしてまだ完全に治安が良いとは思えなかった。けれども、感度の高い若者が集まっていて、地域の勢いは強く感じました。

ちなみに、この地域はinstagram映えするウォールアートがたくさんあることでも有名です。instagramでもたくさんアップされているので見て頂きたいのですが、やはり断然トトロがかわいい。

カカアコの中心地にSaltというすごくおしゃれな商業施設があり、そこにはセンスの光るレストランやアパレルショップがたくさん入っています。その中にあるVillage Bottle Shop & Tasting Room というクラフトビールのボトルショップ兼パブに行きました。兼ねてから飲んでみたかったINUがあったのでラッキーだったなぁ。

 

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Saltから少し離れたところにあるのがHonolulu Beer Works(ホノルルビアワークス)というブルーパブです。天井が高くて開放的。とても良い雰囲気です。ハリセンボンの絵が描かれたココナッツヴァイツェンが美味しいので、ハワイに行ったら是非飲んで下さい。

 

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ウォールアートがピックアップされることが多いカカアコ地区ですが、Saltを中心としたカルチャー発信の場もあり、そこにクラフトビールがちゃんとあるというのも何だか嬉しいです。ビールで街が活性化するのか、街が活性化するからビールが必要になるのか。その順番は場合によって変わるのでしょうが、人が人と語り合う時になくてはならないものなのだから街の文化資産としてブルワリーやパブは絶対に必要だと思う。

ジェントリフィケーションや都市を専門に研究している学者の方や自治体の政策担当の方と「街とビール」について語り合ってみたいと思う今日この頃なのです。もちろん、ビールを飲みながら。