気がつけば21世紀生まれの人がお酒飲むようになったから

先日、大学の卒論のテーマにクラフトビールを選んだ方から連絡があってやりとりをしました。ちょっとだけですが研究のお手伝いをしたのです。声を掛けてもらえたことを嬉しく思いつつ、そのおかげで本気の厳しい意見をしてしまったかもしれない。提示された仮説に対して私の中で根拠も先行事例も知っていたから敢えてそれを隠すのもおかしなことだと考えてフルスイングしました。私の立場からお伝え出来ることは全て伝えたつもりなので上手に使って頂けたら、と思います。

お返事をした後、少し考えたのです。おそらく内容やその質については必要十分を満たすものを提示できたと思うけれども、いや、大盛りすぎたかもしれないが、それを相手が受け取れる形にして伝えることが出来ただろうか。こちら側の言いたいことはそのままに、相手が受け取りやすい形に上手にアレンジして伝えることが出来ただろうか。伝わらなければ意味がない。

今回連絡頂いたのは今大学4年生だからきっと20代前半の方でしょう。となると私とは20歳近く離れているわけで、その事実にちょっとショックを受けます。自分はまだまだ若いつもりでいたけれど全然そんなことは無かった。もう紛うことなきおじさんです、はい。

ふと気がつけば今は2021年。21世紀生まれの人がお酒飲むようになったわけです。初めて飲むクラフトビールがヘイジーIPAであることも不思議ではなくなりました。となれば、今インターネット上に出回ってる「最初に飲むべきクラフトビール5種」とか「初心者におすすめ!基本のクラフトビール5種」と言う感じの記事は新世代に対してだいぶ目線が合ってないよなぁと思うわけなのです。

上記で挙げたような記事ではピルスナー・ヴァイツェン・スタウト・ペールエール・フルーツビールあたりをピックアップしていることが多いように思います。私の意見に批判はあると思いますが、敢えて申し上げるとここ数年でクラフトビールの状況は大きく変化していますから「今、クラフトビール全体を俯瞰するための最初の一歩としてこれらを挙げることに妥当性はあるのか?」という疑問が無くはないのです。

記事を書いている方も知らないうちに老害感を出してしまっているのかもしれません。もちろん私自身も気を付けないといけませんが、気がついたら昔のままのやり方を続けていて時流に合っていない可能性も否定できないと思うのです。

21世紀生まれの方が飲み始めるとなると認識の前提が違うということを意識しておくべきなのでしょう。そうでないと往々にして会話がズレます。伝わっていると話者が思っていても、受け取る方はそうでもないということがよく起こるものです。シャイであまり自信の無い若い方はクラフトビール慣れしているおじさんを前にしたら「うーん、全然分からないのでおすすめで」と言うことも多いだろうと想像するのですが、おすすめされたら何でも良いわけではないのは明白です。周りの空気を読んで「これ、おいしいですね」と言ってくれたとしても本心ではそうではないことはよくある話なのですから。

おじさん側が伝えたい内容を捨てる必要はないのですが、かつて自分が理解した際の形式は古いと感じるべきで、今伝わる形式というものに作り直さないといけないのではないかと考えるのです。だからこそ、まずは話を聞いてとりあえず一緒に飲んでまた話し合うという繰り返しの重要性がクローズアップされるのでしょう。そういう意味でおじさん側の1人として世代を超えた「他者の理解力」や「表現の引き出しの多さ」が大事だと思う一方、それに厚みを与える「質問返し力」や「雑談力」の効用についても考えることが最近多くなりました。考えれば考えるほどクラフトビールという現象にこれらの力は大きく関わっているような気がしています。

緊急事態宣言が延長になりとても残念なのですが、状況が早く落ち着いてくれることを祈っています。そしてまた様々な世代の方と集まってカンパイ出来る日が来て欲しい。