ブルワリー直販問題を考える

先日こんな記事を読んだのですが、日本ではまだあまり議論されていないのでちょっと書いてみようかと思います。ちょっと長いですが、是非お目通しくださいませ。

Beer Battle Brews Between Craft-Beer Makers and Distributors

この記事のタイトルにもある通り、アメリカではブルワリーと流通の間で少々揉めています。ブルワリーの直営店出店や直販について議論されているのです。まず前提について引用しておきます。

Craft-beer volumes grew just 1.6% last year, according to trade association the Beer Institute, the slowest growth in at least 10 years.
Growth is being driven entirely by direct sales from brewers to customers, mainly through taprooms and brewpubs. Direct sales last year grew 24.2%—accounting for one in 12 craft beers sold—while the remainder of craft-beer sales declined, according to the Beer Institute.
ビアインスティチュートによると、クラフトビールの販売量は去年1.6%伸びましたが、これは過去10年間で一番弱いものです。
この成長は主にタップルームやブルーパブのおかげで、ブルワリーから消費者への直販によるものです。昨年直販は24.2%伸び、クラフトビール12本のうち1本は直販に当たる計算です。とはいえ、クラフトビール販売における他のチャンネルでは減少しています。

以前、ビールの物流 正販三層でもご紹介した通り、アメリカでは基本的にブルワリーは消費者に対して直接販売はできず、問屋に卸し、その後酒屋や飲食店に流通させなくてはならない仕組みです。しかしながら、近年各州で法律が変わりつつあり、たとえばカリフォルニア州ではすでに認められています。(Brewers Associationのページで各州のレギュレーションが確認できるので見てみてください)タップルームやブルーパブでの飲食やブルワリーでのボトル・缶の販売は全体の伸びが弱いにもかかわらずとても伸びているのです。この販売形態は間違いなくトレンドです。

Small brewers are eager to capitalize on the trend—selling direct makes for higher margins—but many distributors and bar owners are feeling shortchanged.
小規模ブルワリーは直販の方がより高い利益が得られるのでこのトレンドに乗って儲けを出したいと考えています。しかし、問屋、酒屋そしてパブのオーナーたちは何だか騙されたような気分になっています。

いわゆる「製造小売」の方が中間マージンが発生しませんから利益率は高いわけで、企業としてはそれを選択するのは当然の成り行きであるとは思いますが、今まで一緒に流通を支えてきた問屋や酒屋、パブは裏切られたと感じて良い顔をしないわけなのです。

とはいえ、消費者側から見ると、大分時間が経ってるかもしれないものを酒屋で買うよりもフレッシュで状態の良いものが楽しめる直販形態を選ぶのは仕方ないのかもしれません。そのような消費マインドが広がりつつあるのでしょう、当該記事ではミラークアーズのデータを引用していますが、全米のバー利用客の約9%がブルーパブやタップルームになっているそうです。サンディエゴに至っては全体の35%!。おかげでクラフトビアバーをチェーン展開していたとある企業は売上を大きく落とすことになりました。直販禁止の立法を求める政治運動にまで発展しているのでただ事ではないのです。法律や消費者のマインドの変化に合わせて個別の企業が自身の利益を求めて最適化していった結果、周辺や全体にとっての最適にはならなくなってきたのかもしれませんね。

こういう話は当然ここ日本でも起こりうるわけで、いわゆる「問屋不要論」なども絡めてクラフトビールに焦点を絞りこういうことも議論してみて良いのではないでしょうか。