CRAFT DRINKS的 “Beer of the year” 2017④ フルーツ編
CRAFT DRINKSでは不定期ではありますが、その時々のお勉強を備忘録的に写真を交えてご紹介して参りました。Instagramのアカウントに勉強の記録を残していますので、宜しければご覧ください。→@craft_drinks
そんな楽しい勉強(笑)の中、2017年に飲んで非常に質の高かったビール、印象に残っているビールを幾つかの部門に分けて”Beer of the year” として挙げていきたいと思います。前回までのものを以下に挙げておきますので、お目通しくださいませ。
CRAFT DRINKS的 “Beer of the year” 2017①
CRAFT DRINKS的 “Beer of the year” 2017②サワーエール編
CRAFT DRINKS的 “Beer of the year” 2017③IPA編
さて、本日は「フルーツ編」です。
Dogfish head flesh & blood IPA
まずはブルワリーについてから始めましょう。Dogfish Headはアメリカの東海岸にあるクラフトブルワリーです。
地図を見てもお分かりの通り、日本からは本当に遠い。残念ながら今現在そのビールは輸入されていないようですから「ドッグフィッシュヘッド?聞いたことないなぁ、、、」と言われる方も多数いらっしゃると思います。しかし、下の写真にあるIPA専用グラスは見たことがあるのではないでしょうか?こちらを開発したのがこのブルワリーです。
また、Dogfish Headはrandall(ランドル)というビールに瞬間的にフレーバーをつけるフィルターのようなものも開発しています。写真ではパイナップルやオレンジが入っているのが見えますね。
Dogfish Headは世界一ホッピーなビール(検証済み)も作っていましたね。ビール醸造だけでなくこういう機材の開発も積極的に行っています。また、音楽レーベルも運営していますしホテルまで持っています。クラフトビールを中心に据えたトータルエクスペリエンスの演出という視点で見ればここまで徹底しているブルワリーは無いかもしれません。加えて、例のクラフトブルワーを証明するシールの件でもいち早く導入を決めたりとシーンに対するコミットもスゴいです。特に創業者のSam Calagione氏(サム・カラジオーネ)の発言、行動はいつも注目されていてCRAFT DRINKSでも追い掛けています。
2016年の実績で全米14位の販売量を誇り、もはやクラフト大手と言って良い規模だと思います。今年アメリカ北西部のポートランドに行った時にもdogfish headのビールはたくさん売っていました。地元の尖ったビアギークだけに向けて作っているわけではなく、アメリカ中のクラフトビールファンに向けて発信しています。個人的には「クラフトビールファンの中のマス」にやや寄った形でビールを作っている印象です。ですから、そのビールは「個性的でありながら、癖が強すぎて飲みにくくてはいけない」のです。ここが難しい。
その1つの回答としてflesh & blood IPAをCRAFT DRINKSは高く評価したいと思います。一見矛盾しそうなところをセンスとテクノロジーで何とかしてしまったところに驚きました。このIPAにはレモンの果肉、ブラッドオレンジのピールとジュースが使用されていますが、一口含むと全ての味わいがちゃんと感じられます。それでいて違和感がないし、IPAらしいフィニッシュの苦味もしっかりあります。渋くないのも嬉しいですね。ホップのフレーバーも含め、全部がちゃんと共存していてまとまりがあるのです。缶チューハイっぽくなりそうなところをギリギリで止めてビールに留めている。難しいはずのバランスをキャッチーなところにまで落とし込み、商業製品としてのクオリティもちゃんと担保している高度な技術に感嘆します。あくまでもIPAなので嫌う人もいらっしゃるでしょうが、これならかなり多くの人に美味しいと受け入れてもらえるでしょう。フルーツIPAとして極めてレベルが高いと断言できます。
また、ネーミングが憎い。Fleshは「動物の肉、果物の果肉」を指し、Bloodは「血液」を表します。赤みを帯びたビールの色とイメージがぴったりですし、果肉やブラッドオレンジを使用していることも示唆されてもいるわけです。ですから、パッケージの色も鮮やかな赤。うーん、いちいち上手。
このビールを飲んだ時、「あ、完全にプロの仕事だ」と思いました。思いつきでやってみたのでもないし、ブルワリーのエゴイスティックな何かでもない。全てが意図を持ってきっちりとデザインされていて、香りや味わいだけでなくネーミングやビジュアルまで全てを計算し尽くして最終プロダクトが生まれていると感じました。クラフトビールが流行ると、絵描きが忙しいと以前に書きましたが、ビール単体で美味しいことが前提になった時「クラフトビールを中心に据えたトータルエクスペリエンス」という視点で展開せねばならないということは間違いない。Dogfish headはそれを体現していると思うのです。