街の酒屋さんでクラフトビールがなかなか買えない理由は何だろう?

とある筋から極めて厳しい話を聞き、なんとも言えない気持ちになったのでした。そうか、そうだよなぁ・・・と溜息交じりに呟くしかないのです。きっと社会デザインが良くないのだ。ルールとか仕組みが悪い。そう八つ当たりしたくもなるのです。

クラフトビールが世間では流行っていると聞くけれども、街場の酒屋さんではなかなか見かけないのは何故だろう?と思っていました。ブルワリーもたくさんあるし、瓶・缶を発売しているところも少なくない。一部のビールに関しては需要が高すぎて供給が追いついていない可能性もないことはないのだけれど、全体を見渡した時実際はそういうことでもないらしい。たまたま酒販店仲間と話す機会があり、そんな話題になった時彼はこのようなことを言いました。

品目の多さと賞味期限の短さが原因でクラフトビールは全くやる気が起きないんだよね。新しいものや流行りのものを勉強するのにも手間はかかるけれど、その分儲かるわけじゃない。

まぁ、仰る通りでして。ぐうの音も出ないのです。そこそこ業界に長くいるのでこのことも重々承知しているわけなのですが、それを改めて言葉にされると「うっ、やっぱりそこか・・・痛いところ突かれた」と感じなくもないのです。「品目の多さ」と「賞味期限の短さ」は取扱い条件として本当にきつい。

それぞれについて詳しく考えてみましょう。まずは品目の多さについて。
クラフトビールは多様性がうんぬんとよく聞きますし、実際様々なスタイルのものがあります。今現在クラフトビールが何銘柄日本で流通しているか最早把握もできませんが、100種類はすぐに集まると思います。定番品だけでも相当な数になりますが、限定品も含めたら一体いくつになるのだろう?もう数えたくないくらいの種類になりますね。それも、コラボで一回だけ仕込んだものなどもあるわけですし、きっとまた今日も新しいものが1つ2つリリースされるわけです。輸入ビールもどんどん入ってきていますから情報が全く追いつかない。ビールの情報を追いかけているだけでも相当ハードな作業です。そういう大きな負担がある仕事にもかかわらず、ビールは比較的安いお酒なのでそれほど儲からないのも厳しいところ。業務コスト、学習コストに対するリターンが少なすぎるとも言えます。今のビールには高い専門性が求められますが、ワインほど儲からないからモチベーション上がらないのかもと思ったりもするのです。あぁ、なんだか自分で書いていながら思わず泣けてきた・・・

次に「賞味期限の短さ」ですが、大手スーパー、コンビニへの流通においては3分の1ルールが大きい。大分昔からこの慣習が続いていて、昨今の食品廃棄問題もあって批判も少なくない仕組みです。朝日新聞web版に解説があるので是非お目通しください。

賞味期限の「3分の1ルール」 見直して減らす食品ロス

ビールも例外ではありません。賞味期限の迫っているものが納品されてしまうと棚に置いておける期間が短くて扱いにくいので機械的に3分の1ルールを適用しています。そうルールとして決めておけばラクなのです。もう3分の1残っていないなら有無を言わさず棚から外します。そこに「美味しい」とか「素晴らしい」などという感情や情緒的な何かは一切ありません。日々の業務を回していくための効率化、すなわちルール化して考えなくて済むことを増やしていくのは大事なことなのです。

また、無濾過・非加熱で遠心分離もしていないものも多く、特に国産だと賞味期限90日という短いものも少なくないのがクラフトビール。品質保全の為に冷蔵輸送・冷蔵保管しないといけないというのも小売店で扱う場合にネックになります。家庭用市場は大手が圧倒的なシェアを持っていますが、みな常温流通のものです。飲み手との接点である小売店の棚はそれに合わせて作られており、クラフトビールの条件とは全く合わない。

有名で勝手に売れていく商品が欲しいというのが多くの酒屋さんの本音でありましょう。出来れば手間のかからない常温流通可能なもので、かさばらない缶が良い。そして、売れ線に集中して欲しいのでラインナップの拡張はしないで済むのが更に良い。で、しっかり儲かるものなら最高だ。

・・・小売側の条件を洗っていくとつくづくクラフトビールと相性が悪いのだなぁと思わざるを得ません。街の酒屋さんでクラフトビールがなかなか買えない理由とは酒屋さんがクラフトビールを扱いたくなるような仕組みに社会がデザインされていないからでしょう。しかし、逆にチャンスでもあると思うのです。単に酔うためのお酒を扱っているのではないのですから、そもそも土台が違うはずです。ものは考えようで、たとえば上に挙げた事柄に対して逆張り出来れば競合が少ない分一気に有名になれるはず。機能面でコンビニ・スーパーと勝負しては勝ち目がありませんから、コンビニ・スーパーには出来ない何かを考えていくべきではないかと思います。