ポートランドのブルワーが語るビアパブ論

Hood to Fujiのプレイベントとして関係者のみが参加出来るセッションがあり、有り難いことにお誘い頂きました。なかなか無い機会なので、先日雨が降る中代官山に行って参りました。その時の内容は専門的な醸造技術の話やこれからのビールの進化に関する予想など多岐に渡るのですが、多くの方と共有・共感できそうなビアパブの在り方について少し書いておこうと思います。

今回のセッションに登壇したのはGigantic、Culmination、Great Notionのブルワー3人で、司会進行のレッドさんから「コミュニティを作るには?」という質問がありました。コミュニティというのは結構広い概念で、各人認識している範囲が違うかもしれませんが、その時まず挙がったのは・・・

ブルワー同士が仲が良く、協力しあっていること(何なら自社タップルームに来たお客さんを相互に紹介するくらい。発言の中に出てきたBrotherという表現がなんだか良いなぁと思いました)

そして、Giganticのブルワーはタップルームが接点として極めて重要だと指摘した上で、とにかくこう強調していました。

タップルームのケアがとにかく一番大事
来てくれたお客さんと仲良くなるべき
ウェルカムな空間の維持が重要で、それは店員だけが生むものではなく、来店しているお客さんも含んでいる
ビールの美味しさがお客さんを呼び込む

その上で、”you don’t make beer , you make the relationship”と締めてくれました。あぁ、なるほど。流石だなぁ。

飲食店におけるセオリーを考えた時、実は極めて当たり前のことを言っているだけなのです。前提としてビールがちゃんと醸されていて美味しいことがあるのですが、そこから先は「一流の飲み屋であるべきだ」と言っているのだと私は解釈しました。ウェルカムであることは全てのわがままを許すことではなく、誰かがタップルームの秩序を乱すようであればその責任者として当然厳正に対処しなくてはならない。これは世の東西問わず共通していると思います。そして、それは古臭いものではなく、人が飲み屋で飲むことをやめない限り忘れてはならない不変の法則なのでしょう。

良い飲み屋には店の格、つまり「店格」があり、その格に付随する哲学や美意識に飲み手は吸い寄せられてくるのではなかろうか。店舗運営、サービスという点で考えると、一流の大衆酒場にそのヒントがあるのではないかとCRAFT DRINKSでは考えています。全国各地に素敵な大衆酒場があると思うので是非行ってみて頂きたい。お店ごとに流儀は違うだろうけれど、そこに通底するサービスマンシップというか、気持ち良く飲ませようとする心意気みたいなものが漂っている。

さて、ここ日本はどうだろう?クラフトビール業態を掲げるお店はレアもの、限定品に頼って店舗運営をしていないだろうか。常連だけでなく初めて来店なさった方にも分け隔てなくコミュニケーションを取って心配りをしているだろうか。お店の流儀、哲学、美意識をはっきりさせて心地よい空間を作り、それを維持しているだろうか。暗にそんなことを尋ねられているような気持ちになったのでした。

ビアパブとは「特にビールが得意な飲み屋」であり、ビールが得意なのは大前提。そこから先のコミュニケーションが勝負なのであると改めて教えて頂いたような気がしました。あぁ、そうか、そういう気持ちで醸し提供しているのだなぁ。本物のプロだなぁ。きっとGiganticのビールは美味しいだろう。いつかブルーパブに行って飲んでみたい、そんな気持ちになりました。