成功しているビアバーがやっている5つのこと②知識のあるホールスタッフ

成功しているビアバーがやっている5つのことと題して、アメリカの事例を元に以下の5点について考えていきます。前回書いた通り、これはアメリカの話なので完全に日本と同じというわけでもないかもしれませんが、参考になると思います。良い部分は取り入れて、日本アレンジを加えれば良いでしょう。

1. Knowledgeable Waitstaff(知識のあるホールスタッフ)
2. Up-To-Date Beer Menu(メニュー管理)
3. Cleanliness/Maintenance(清潔さ/日々のメンテナンス)
4. Serving Temperature(提供温度)
5. Glassware(使用するグラス)

今日は1. Knowledgeable Waitstaff(知識のあるホールスタッフ)について。craftbeer.comの記事をまず見ていきます。

1. Knowledgeable Waitstaff(知識のあるホールスタッフ)
While not everyone who works at a bar or serves food needs to be an expert, basic knowledge is paramount in keeping patrons happy. Servers may not need to memorize the IBUs of every beer on tap, but they should know what the term means, and be able to quickly find the information when asked.
バーなどで働く飲食店スタッフが全員エキスパートである必要はないけれども、基礎知識はお客様を幸せにしていく上で何より大事です。スタッフは今繋がっている樽生ビールのIBUをそれぞれ憶えていなくても良い。しかし、IBUとはどういう意味であるかは知っておくべきで、尋ねられた時即座に答えられるようでなくてはならない。

Additionally, the more knowledge the waitstaff has, the more beer an establishment will likely sell. Being able to recommend beers that match a customer’s preferences is an easy way to build trust. If a customer says he likes amber ale, a server who can thoughtfully offer an English-style mild will get a better response than one who suggests something with a totally different flavor profile, ­like a tart Belgian-style Flanders.
加えて、スタッフの知識が増えるほど、売れていく環境が出来ていきます。お客様の好みに合わせた提案が出来ることは信用を作り上げるのに一番の方法です。アンバーエールが好きだというお客様がいたとします。全然違う味わいを持つ、たとえば強い酸味のフランダースレッドエールのようなものをオススメするスタッフよりも、ちゃんと考えた結果イングリッシュマイルドを提案したスタッフの方がお客様から良い反応を得られることでしょう。

Many craft beer patrons treat each pint as a learning experience. At a quality bar, customers know they can rely on the staff to properly steer them in the right direction or help them navigate the waters of a menu full of unfamiliar brews. It is the responsibility of ownership or management to equip the staff with the right tools and information to satisfy their patrons. The CraftBeer.com Beer 101 Course is the perfect place to start if you work in retail sales, the restaurant industry or are simply a burgeoning craft beer fan looking for a solid introduction to the beer universe.
クラフトビールを愛するお客様は一杯一杯から色々なものを感じ取ろうとしながら飲みます。全然知らない銘柄で溢れるメニューを渡されても、レベルの高いバーではお店のスタッフが間違いない方向に導いてくれるのでお客様は安心していて良い。顧客満足に貢献するツールや情報をスタッフに与えることはオーナーや店長の責任です。

シンプルに書かれていますが、深い。実際行うには非常に複雑で難解だと思います。上記引用からCRAFT DRINKSなりに重要な部分を拾い上げ、考えてみます。

第一段落にある「基礎知識」がまず重要。たとえばIBUやABV、SRMなどはよく聞く用語なので知っておいて頂きたいですね。ビアスタイルについても一通りは。とはいえ、どこまでが基礎でどこからが応用なのか?と悩んでしまいます。この線引は非常に難しい。この記事はBA関連のcarftbeer.comのものなので最終的にはBAのトレーニングプログラムを推奨していますが、残念ながら日本では開催されていません。であれば、まずは何でも良いので書籍にあたったり、勉強会に参加したり、詳しい諸先輩方にお話を伺うことも大事。流行っているお店を調査してそれを模倣するのも大事かもしれません。そこから見えてくるものもたくさんあるでしょう。今は情報が手に入りやすくなったことを最大限活用すべきではないかと思います。

第二段落の「お客様の好みに合わせた提案が出来ることは信用を作り上げるのに一番の方法です。」は更に難度の高い内容でしょう。提案するには引き出しが無いといけません。この記述を深読みすれば、スタッフ側が興味を持って色々なものを常日頃から飲んで引き出しを増やしているというのが前提にあるのです。お客様の何気ない一言をヒントに適切な解を導こうとするのであればそれ相当の経験が必要でしょう。お店で扱っているものだけでなく、他のものも一定以上知っている必要があるように感じます。(たとえば、CRAFT DRINKSではバレルエイジのビールを飲むならウイスキーも飲もう!とご提案しています。)

もう一点。飲食店の現場でなくてもこういうことはよくあるわけですが、往々にして人間は「間違いなく何かを求めているのだけれど、それが具体的には何なのかは自分自身でもよく分かっていない」。モヤモヤした気持ちが上手に言葉にならなくて困ってしまいます。恐らくスタッフの方自身も今までに一人の飲み手としてこういう体験があるわけで、その経験を自身の中で昇華させてあげる必要があるのかもしれません。難しく書きましたが、要するに「何でもいいから、何かちょうだい」と言われた時にどう対応するかということなのだと思います。「何でもいいから、何かちょうだい」という時の「何でもいいから」は実は何でも良くないことが多々あるわけですから。

第三段落はもっとハイレベル。「任せておけば大丈夫」という信用や安心感はどこから来るのでしょうか?それは過去から継続的にお客様の期待に応えてきたという実績があるからに違いない。前述の「何かちょうだい」に対して的確なヒアリングをし、それに沿うものを提供し続けてきたということなのでしょう。店舗レベルで考えれば、レベルの高いスタッフがそれを達成できても、その人が休んだり辞めた後にそれが出来るか?というのも考えておくべきことの一つかもしれません。店舗としてのスタッフ教育は非常に重要になるわけですが、「顧客満足に貢献するツールや情報をスタッフに与えることはオーナーや店長の責任です。」という一文の裏側にはそういう意図も多少あると思います。最終的にそれはお店の格になることでしょう。

以前、知識のあるホールスタッフについて私は「気持よくホームランを打たせてくれるバッティングピッチャー」と表現しました。これは今も昔も変わらない本質の一つなのではないでしょうか。

最後に一点だけ。前回、序文でこう訳した一文があります。

バーやレストランの人たちはシーンのペースと消費者の急速に向上する知識にちゃんとついていこうと必死になっています。

裏を返せば、すぐにシーンは遥か先に行ってしまって浦島太郎になってしまうということであり、お店とお客様のレベルに逆転現象が起こりうると言っているのでしょう。そうなのです、クラフトビールは本当にアグレッシブでクロスオーバーですからね。身の引き締まる思いです。