出版までの道程3 編集者に出会うが・・・

前回即売会に出るようなったことを書きましたが、即売会に出ていると名刺を持ってブースにいらっしゃる方がいます。99%は同人誌通販の会社の方で、名刺と共に「会場で回収もしますので、新刊を委託してください。よろしくお願いします〜」と言われます。こちらも「いつもお世話になっております〜。後ほど持っていきますので!」と返すというのがお決まりのパターンです。

しかし、ごく稀にスカウトのようなことがあります。とある即売会に出ていた時、立ち読みをしていた方とクラフトビールの話になりました。クラフトビールの本を出しているのでクラフトビールの話題になるのは当然と言えば当然なのですが、「実は私・・・」と名刺を頂戴しました。私も知っている出版社の編集者で、「企画次第ではあるのですが、クラフトビールの本出しませんか?まずは一度詳しくお話しさせて頂けたら」と言われ、ビックリしました。絵も描けず、クラフトビールというニッチなジャンルのものについて小難しいことをゴチャゴチャ書き殴っている私にこんなことがあるのか・・・

そもそもコミティアなどの大きな催事では漫画雑誌の編集部が持ち込みブースを構えていて、作者は原稿を持って自ら売り込みに行くのが普通であって、編集者の方から来てくれるのは稀です。小説であれば文芸雑誌の賞に応募することもあるでしょうが、私のジャンルである評論、批評の場合、そういうのもほぼありません。絵心が無いから文章を書いている私としてはジャンルも違うし、持ち込みやスカウトには縁のない話だと思っていました。正に青天の霹靂。こういうこともあるのかと思いつつ、半信半疑で名刺にあったアドレスにご挨拶のメールをして面談することになりました。

周りにもすでに出版をしている方がいましたし、物書きをしているとやはり出版には多少なりとも憧れるものです。商業出版するということが一体どういうことなのかは全く分かっていませんが、何だかとてもカッコいい感じがしました。今思えば非常に浅はかな考えで、恥ずかしくなります。

出版社の事務所にお邪魔し、これまで書いてきたものをサンプルとしてお渡しして「こういうことを考えています」、「ああいうことは書けると思います」と拙いながらも一生懸命プレゼンしました。うんうんと頷きながら私の言葉を一通り聞いてくださいましたが、編集者の方は「想定読者は・・・」、「どういう棚を狙うか・・・」、「類書の傾向も見ておかないと・・・」などと意味不明なことを口にしました。

正直に言えば「え、何言ってるの、この人…」と思いました。しかし、それは私が未熟で何も知らないど素人だったからで、至極当然のことしか言っていないということにその時は気が付かなかったのです。出版することが出来るかもしれないという気持ちが昂り過ぎて、商業出版するということの意味を理解していませんでした。

もう覚えていませんが、おそらくその場では頓珍漢なことばかり言っていたことでしょう。とりあえず企画として章立て、項目立てをしてメールしてくださいと言われてその日は帰ってきました。「よーし、やるぞ!」と意気込んで作ってみたものの、結果はボツ。そして、改変してもう一度チャレンジすることもなく話は流れてしまったのでした。

とある方からの紹介で別の編集者を紹介されたこともありました。上記同様、鼻息荒く要領を得ない話をして企画のようなものをメールしても何の音沙汰もない、と言う経験もしました。

「自分が書きたいこと」だけではなく、「出版に値する内容」の話が出来ていなかったのだと後々気がつくことになります。当然のことなのですが、読んでくださる方の為になるものでなければ出版する意味がありません。そして、先行して出版されている本と内容が重複していても価値はありません。極めて常識的な話であって、何一つ難しいことではないのに、いざ自分のこととなるとそういう当たり前のことが分からないというのは不思議なものです。そうして類書の研究を始めることになったのでした。

続く

【お知らせ】
KADOKAWAの新書レーベル「角川新書」から「クラフトビール入門 飲みながら考えるビール業界と社会」を8月10日に上梓致します。こうした幸運に恵まれたのも皆様に読んで頂き、ご指導頂いたお陰です。心より深くお礼申し上げます。

本書ではこれまでのクラフトビール本とは異なったアプローチでクラフトビールという文化現象について綴っております。クラフトビールの本にもかかわらず個別具体のビールを取り上げてご紹介してはいません。クラフトビールというものが具体的に存在するわけではない、つまり「クラフトビールというビールはない」のであり、あるのはイメージだということを説明するのがこの本の目的の一つだからです。その上で、クラフトビールを液体ではなく文化現象として描き出し、「ビールと私」という閉じた系からコミュニティ、社会へと開いた系へと転回していくことを提案したいと思い、筆を執りました。本書を手に取ってくださった方が素敵な一杯に出会う手助けになってくれることを心より願っております。

現在、下記で予約受付中です。また、お近くの書店で「ISBN:9784040825410 クラフトビール入門 飲みながら考えるビール業界と社会」とお伝えすれば予約・取り寄せも可能です。ご拝読賜りますようお願い申し上げます。

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