
出版までの道程4 突然バズって通知が止まらない
前回類書の研究を始めたと書きましたが、その一環でビールに関する様々な本をそれまで以上に読むようになりました。ビーの本はもちろん、洋書にも手を出しました。今まで様々な方が様々な視点でビールというものについて考え、言葉を綴ってきています。
日々ビールを飲みながら色々と思案し、私の頭の中にも言いたいことがたくさんありました。自分で勝手に作る本についてはそれほど困っていなかったのですが、商業出版となるとまだまだ研究不足で…研究は地道に続けるとして、今は好き勝手に書いていこうと決めました。ちょうどコロナ禍も明けて徐々に世の中も動いてきたから、酒販と物書きを地味に続けるのが良いだろうと思ったのです。
そんな2023年の夏のことです。一番最初に出した「クラフトビールの今とこれからを考える本」がプロバーテンダーによって発掘され、何の前触れもなくいきなりバズってしまったのです。生まれて初めてバズって通知が止まらないということを経験しました。その時の顛末は以下でご覧頂けます。
『クラフトビールの今とこれからを真面目に考える本』という同人誌がガチの論文だった
要するに、流れとしてはこういうことです。神楽坂のパーリンカさんが「ビールの勉強するか…オススメの本貸しておくれ」とサケトメシトの酒泉りりちゃんに相談したら、りりちゃんがコミックマーケット96に参加した時に買った私の本をを貸した、と。で、読んでみたら良かったのでSNSで呟いたらバズってしまったのです。
バズったのは運としか言いようのないことですが、プロに評価して頂いたということそれ自体が非常に嬉しかったことを強く覚えています。一生懸命書いて本当に良かった。
そもそも自分の書いたものについて評価を受けることはほとんどありません。もちろん褒めてもらえたら嬉しいですが、そういうリアクションもほぼありません。私個人としてはむしろ批判的に読んで頂き、脆弱な点を指摘してもらいたいと考えています。しかし、それは褒めて頂くことよりも更に少ない。どういうものであれ、リアクションがあるということそれ自体が貴重で嬉しいのです。そういう意味で思いがけずバズったおかげで良い経験をさせて頂きました。
コロナ禍でビールを取り巻く環境も大きく変わりました。初版の内容では時代にそぐわないと思い、改訂することにしました。そうして出来上がったのが「クラフトビールの今とこれからを考える本 改」です。
改訂作業を通じて思ったのは、クラフトビールなるものは液体ではなくやはり現象なのだということです。そして、クラフトビールという無形の文化、もしくは現象について考えているのだから、視点によって見解が異なるのは当然です。唯一無二の答えがあることを論じているのではないからです。それぞれの見解の相違から議論は始まり、その議論を通じて共通する大事な部分が浮かび上がっていきます。また、相違が生まれる理由を探ることで双方のスタンスが明確になります。ビール自体が美味しいことを前提に、ビールをテーマに語り合うことが実はとても大事なことなのです。それはコミュニティを生み出す原動力であり、文化のエネルギーそのものではないか。そんなことを改めて思ったのでした。
乾杯は間主観的に複数の主体を繋ぎ、一つにします。つまり、複数いる個人を「私たち」にするのです。これはどんなお酒でも可能であると言えば可能ですが、乾杯の後に語り合うに足るテーマ性を持つお酒としてクラフトビールを私は推したい。
・・・思えば、類書の研究をしていてもそういう本は無かったことに気がつくのでした。
続く
【お知らせ】
KADOKAWAの新書レーベル「角川新書」から「クラフトビール入門 飲みながら考えるビール業界と社会」を8月10日に上梓致します。こうした幸運に恵まれたのも皆様に読んで頂き、ご指導頂いたお陰です。心より深くお礼申し上げます。
本書ではこれまでのクラフトビール本とは異なったアプローチでクラフトビールという文化現象について綴っております。クラフトビールの本にもかかわらず個別具体のビールを取り上げてご紹介してはいません。クラフトビールというものが具体的に存在するわけではない、つまり「クラフトビールというビールはない」のであり、あるのはイメージだということを説明するのがこの本の目的の一つだからです。その上で、クラフトビールを液体ではなく文化現象として描き出し、「ビールと私」という閉じた系からコミュニティ、社会へと開いた系へと転回していくことを提案したいと思い、筆を執りました。本書を手に取ってくださった方が素敵な一杯に出会う手助けになってくれることを心より願っております。
現在、下記で予約受付中です。また、お近くの書店で「ISBN:9784040825410 クラフトビール入門 飲みながら考えるビール業界と社会」とお伝えすれば予約・取り寄せも可能です。ご拝読賜りますようお願い申し上げます。
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