「ミッケラー、カールスバーグと提携」で、ビールはやっぱり物流だと改めて思う

昨日、ビッグニュースが入ってきました。デンマークのクラフトブルワリー・ミッケラーがカールスバーグとパートナーシップを結ぶことを発表しました。下記がミッケラーからの公式発表です。

Mikkeller signs agreement with Carlsberg: New partnership to strengthen Mikkeller’s sales and distribution

カールスバーグがミッケラーの株式を20%持つことになり、デンマーク国内の流通を行うとのこと。創業者であるミッケル・ボルグ氏はそのまま続投。今後もイノベーションを推し進め、世界に展開していくことを宣言しています。

このことをMikkeller HQのfacebookアカウントでも報告しています。様々なコメントが付いているので気になる方は是非チェックしてください。

ところで、1月6日にこんな記事が出ていたのはご存知でしょうか。

日本経済新聞 アサヒGHD、米でスーパードライ生産 現地メーカー買収

内容としては記事冒頭にある通り、『アサヒグループホールディングスは5日、米飲料製造受託のオクトピ・ブルーイング(ウィスコンシン州)を買収したと発表した。買収した企業の拠点を活用して、主力ビール「アサヒスーパードライ」を米国で初めて生産する。』ということです。

インベヴやコンステレーションがアメリカでは強いのは事実ですが、バドワイザーやコロナと伍していくには弱点を克服しなくてはなりません。その一つが物流であろうと私は考えます。

ビールはものすごく運送に向かない商品です。他のお酒に比べて単価が安く、傷みやすい。そして、重たくて嵩張ります。ワインやウイスキーと違って賞味期限も存在します。この性質はどの国であっても同じです。マニア向けの特別なものではなく、コモディティであれば消費者に対して安く大量に、そして素早く運ぶことが求められます。

そう考えると、アメリカで商品を展開するにあたって日本から船で運ぶのは非常に効率が悪い。時間もお金もかかり、その分商品価格が上がってしまうと市場での競争力を削ぐことになります。

この解決策は大きく2つで、第一に消費者に生産地に来てもらうこと。地元の消費者にフォーカスすればハイパーローカルという発想になります。遠方からの来訪者には交通費がかかるけれども、ビールに対しては物流費がかからず、フレッシュなものを比較的安く楽しむことが出来ます。この発想の先にビアツーリズムがあると考えて良いでしょう。

もう一つは消費者の近くで生産して物流をスリムにすることです。遠方から運ぶよりも、現地で醸造所を構えるか、ライセンス生産して流通させる方が安く早く届けられます。過去の事例を挙げればきりがないですが、たとえばインベヴ傘下となったアメリカのグースアイランドでは幾つかの商品は韓国で作られていて、それが日本に輸出されています。ベルギーのヒューガルデンも同様に韓国産のものが一部流通しています。日本国内でもこういう事例はありまして、日本でキリンがブルックリンラガーを、今のところドラフトのみですがスコットランドのブリュードッグのPunk IPAをアサヒビールが作っています。

こういったことを総合して考えると、アサヒビールはアメリカにおいてスーパードライで本気で勝負するつもりなのだと思います。今後の展開に注目です。

さて、冒頭のミッケラーの話に戻りましょう。カールスバーグという世界的ビール会社がステークホルダーになりました。デンマーク国内での流通で協力するとされていますが、今後更なる世界展開を考えれば、先に挙げた事例のことが浮かんできます。「消費者のいる現地、もしくはその近くにある大きな醸造所で生産し、広域に流通させる」ことが出来れば有利なのは間違いありません。まだ個人的な妄想に過ぎませんが、世界中でライセンス生産をする・・・・そういう可能性がゼロではないと私は考えています。

本件についてまだ情報が少ないので断言出来ることは多くありません。ですから、とりあえずこれくらいにしておきますが、改めて思うに、ビールビジネスはなんだかんだでやっぱり最後は物流が最重要ポイントの一つで物流網と棚の数が勝負の鍵です。

参考 ブリュードッグとアサヒビールの提携で考える「棚の数」のこと

知人に他の視点からの意見も伺ったので追記しておきます。気が付けばミッケラーの創業者であるミッケル・ボルグ氏も48歳で、ミッケラーというブランドの将来について考えていないわけはないと思います。社内で後継者問題が顕在化したのかもしれません。まだまだ元気なうちに勝負に出た可能性もあるけれど、カールスバーグと関係を強化してミッケラーを残そうとする選択肢もあり得る。

日本でも後継者問題がこれから話題になるでしょう。90年代半ばに地ビールが始まり、もう30年です。世代交代の波は否応なく押し寄せてきます。何もないところから始めた一代目から二代目へと引き継ぐことは簡単ではないと思います。うまくいかなくて事業売却という話も今後出てきておかしくはないでしょう。他国の先行事例を研究し、日本で応用できたらと願ってやみません。

・・・世代交代・事業承継の話をガージェリーの社長である別所さん、けやきひろば責任者の鈴木さんにも伺っているので「サシノミ」を是非読んでください!