「完コピ」しきっても残ってしまうもの

昨年のことですが、印象的な一杯に出逢いました。この面白さは、例えるなら「森村泰昌」のセルフポートレイトようで。もしあなたが彼の作品を観て色々と思うところがあったのならば探してみて頂きたい。そして、一度飲んで感じて頂きたい。そう強く思います。

 

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去年飲んで衝撃を受けた一杯について今日は綴っておこうと思います。CRAFTなDRINKSを愛しているので特段ビールだけにこだわっているつもりはないのだけれども、年に何回かこういう経験があるからビールはやめられない。

Firestone WalkerのOld Man Hattanというビールをとあるビアパブで飲みました。その時お目当てだったのは新しく輸入されたロシアのクラフトビールだったのですが、それを遥かに凌ぐインパクトでした。そして、飲み込んだ後心に様々な言葉やイメージが一気に浮かんできたのです。

 

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ビールの詳細についてはこちらをご覧頂くとして、ざっくりまとめると「スタンダードカクテルとして有名なオールド・ファッションドとマンハッタンを融合させたようなバレルエイジドビール」です。バレルエイジドビールとしても素晴らしい出来なのですが、それ以上にカクテルの再現度が高い。これらを混ぜたら確かにこうなるだろうなぁ・・・という説得力に溢れていました。

4年前、カクテルインスパイアビールと題して幾つかその当時発表されていたカクテルを模したビールをご紹介しました。これまでのビールの文脈をアップデートすべくこういうアプローチをしているのだと思います。ビールなのだけれど、カクテル。カクテルなのだけれど、ビール。そんな不思議な何か。

元々のオールド・ファッションドとマンハッタンを飲んでいてそれらのイメージを持っているとニヤリとすることは間違いありません。Firestone Walkerの醸造家の方々はめちゃくちゃカクテルを飲んで研究したのだと推察します。それほど再現度が高い。ちょっと度数の低いカクテルそのもののように思えました。特にベルモットとビターズのニュアンスが素晴らしいと私は思いました。ブルワーがカクテルに対して確固たるイメージを持ち、その要素を分解して深い理解に辿り着いていないと決してこのようなものにはならないでしょう。

オリジナルへの理解とメタ認知、そしてビール化させるための再構築。極めて高次な作業が行われた結果がこのお酒なのだと私は感じ、強く感動しました。新しい概念のビールを生み出そうと模索する中で、ミクソロジー的アプローチを取り込んだビールと表現しても良いかもしれません。なんだかこっちの方向に未来がありそうな。そんな気にさせてくれる一杯なのでした。

ふと思うのです。

同じモチーフであっても方法が違えば絶対に同じにはならない。確かに「それらしさ」は多分にあるのだけれど、どこか違う。きっと人間というものは違うから似ているところを探し、似ているから違いが気になるように作られているのではないか。その作品たちの差が小さくなればなるほど、その微細な差が気になってしまうのが人間本来の性質なのかもしれない。そこで発見された同質性や差異性自体にもきっと何らかの価値があるだろう。ビールとその他のお酒の境目が曖昧になって概念が揺らいでいく感覚がなんとも気持ち悪くて心地よい。

「完コピ」しきっても残ってしまうものがきっと何かあるのです。それが何なのか考えることはとても大事だと思う。