実験!グラスでビールの印象はどれだけ変わるのか?

CRAFT DRINKSではビールを中心に扱っていますが、クラフトビールはクロスオーバーなのでジャンル問わず色々と飲むようにしています。ワイン、酒精強化ワイン、シードル、ウイスキー、ブランデー、リキュールなどなど。美味しければ何でも、という感じで特に枠を作ってはいません。

美味しいものを美味しく楽しむためにはやはりグラスも重要です。凝り性なもので、ハマると集めたくなってしまうのですよね。バカラ、ラリック、ヴァルサンランベールのようなデコラティブなクリスタル製品も素敵なのですが、大概重くて日常的には使いにくいんですよね。あくまでも日々使用することを目的にしていたので実用性、機能性を重視して収集していました。そういう条件を満たす生活の器ってなんだか良いんですよね。手に馴染んで落ち着きます。お酒用ではありませんが、そういう意味ではファイヤーキングも好きで、こんなコーヒーカップを長年愛用しています。

グラスに話を戻しましょう。昔はベルギービールの専用グラスも集めていてたくさん持っていました。しかし、結構な量になってしまって置き場所に困り、一部を除いて引っ越しの際に処分してしまいました。相当減らしたにもかかわらずそれでも自宅にはかなりの種類のグラスがあってすでに棚はぎゅうぎゅうなのですが、イベントのおまけで頂くことなども少なくないのでまだまだ増えていきそうです。思い入れのあるものも少なくないから処分するにも気が引けますし、どうしたものやら・・・と途方に暮れることもしばしば。まぁ、仕方ない。諦めよう。

とはいえ、これだけ色々所有しているのだから飲み比べをしてみるのも面白そうだと思い、今回同じお酒を8種の形状の異なるグラスに注いで飲んでみました。

 

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Same beer, different glasses. Interesting. #craftbeer #hazyipa #glass

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以前、家飲み品質向上計画と題して実際に使っている家飲みグッズをご紹介したことがあります。最近家飲みも増えましたし、あの当時使っていなかったものも使用するようになったのでアップデートもしようと思います。ちなみに、当時メインで使っていたのはこちらの5種類です。

ちなみに、注いだビールはたまたま自宅に20Lキーケグであったフルセイルブルーイングの新作Hazy IPAです。たまたまじゃないですね、はい。家飲みクオリティを向上させるために個人的に買ってしまいました(笑) 別の機会に「家で樽生飲もう計画」について書こうと思いますが、自宅でドラフトが飲めると良いですよ。QOLが劇的に上がります(実証済み)

 

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#drinkathome #fullsailbrewing #hoodriverhazyipa tasty!!

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それでは本題の実験です。今回実験で使用するビールの条件はこういう感じです。このセッティングだとフォーセットが原因で最初必ず泡立ちますが、冒頭のカバー写真のようにUSパイントグラスで1〜1.5cmほどの泡が乗った形で毎回注げます。

①液温6℃、2.5Co2 Volのビールに対して0.8barかけています
②内径3/8″のブレイデッドビニールホースを約2.8m使用
③注ぎ口はピクニックフォーセット

では、テイスティングです。グラスについてはこのような点に注目したいと思います。

①上部に空間があるか

USパイントグラスとそのハーフパイントの縁まで注いだ2つの場合と、半分以下にした時を比べました。グラスのサイズは影響ないような気がします。飲み心地は大して変わりませんが、減らした時の方がホップ由来のトロピカルな香りが感知しやすいです。アロマを楽しもうとするならば上部に空間はあった方が良いと思いました。

②口に当たる部分のアール

口の広いストレートなロックグラスとリーデル ヴィノムのシャルドネグラスです。ストレートなものと、少しアールのついたものを比較します。USパイントグラスだとグラスの厚みがかなりあるので薄めのロックグラスを比較対象としました。

どちらもアロマは満了まで入れた場合よりも強く感じますが、シャルドネの方がより複雑です。飲み比べると口に入ってくる量、質感が全く違います。液体のソリッド感、まとまり具合というか、マウスフィールはロックグラスの方が少し重たく、ワイングラスだと柔らかく若干繊細な印象。ここは好みが分かれそうです。

③液面の広さ

左からリーデル ヴィノムシリーズのブルゴーニュ、ボルドー、シャルドネで比べてみます。ボウルの体積が異なるので純粋な比較にはなりませんが、液体表面の面積の違いでアロマがどうなるかを考えてみます。

どれもパイントグラスに比べると大分強くアロマを感じ取ることが出来ましたが、大きい方がトロピカルさだけでなく少しグラッシーなニュアンスも感じます。ブルゴーニュよりボルドーの方がフレーバー、余韻共に若干強く、飲む前から飲み込んだ後までの流れとして美しいと感じました。比較するとシャルドネもブルゴーニュというよりはボルドー寄りできれいな流れがあります。口に入ってくる液量のニュアンスで若干軽くフラットに感じました。

中間考察

フルセイルブルーイングのHood River Hazy IPAはアザッカ、モザイクなどの特徴的な香りを発するホップをふんだんに使用したもので、6%ながらフルセイルらしくモルトのボディもしっかりあるバランス型のお酒です。これを「ガブガブいきたい」のか、「アロマを重視しつつボリュームを感じながら飲みたい」のかで適切なグラスは変わると感じました。口の部分がストレートの方がたっぷり入ってくるので前者にはぴったりです。しかし、アロマはワイングラスに比べると拾い難い。アロマを重視しつつ繊細な感じで飲みたいならブルゴーニュまで大きいとお酒のポテンシャルを超える気がしたので、ボルドーもしくはシャルドネの方がベター。

④IPA専用グラスの場合

シュピゲラウのIPA専用グラスです。シャルドネくらいのアールと上部の空間があります。アロマも十分ありましたが、ワイングラスに比べてグラッシーなニュアンスを感知しました。総合的には良いですが、飲む度に泡が再生されるせいかビタネスが他のものよりも感じられます。個人的な見解ですが、Hazy IPAに苦味は求めていないのでIPA専用グラスはちょっと違うかなぁと思いました。

⑤テクグラスの場合

液面は広く、口はパイントグラスのようなストレートな形状のテクグラスです。今回試した中では一番総合評価が高かったです。アロマも拾えるし、流量もちゃんとあってガブガブいけます。ただ、アロマの解像度という点ではボルドーが少し上。ボルドーの方がより鼻に向かって空間が狭まるためだと思います。

イタリアのメーカー、ルイジ ボルミオリのテイスティンググラスも良いと思います。

まとめ・新しい課題

①パイントグラスは大きさを問わずほぼ変わらず、フラットな感じで飲める
②上部に空間があった方がアロマが拾いやすい
③口の形状でマウスフィール、ボディ感、余韻が異なって感じられ、それぞれ良いところはある

ここで新しい課題が出てきたことを感じます。私たちは「理想から逆算してグラスを選ぶのか?」それとも「グラスの違いによる表情の違いを楽しむべきなのか?」ということです。

先程も申し上げた通り、私はHazy IPAにビタネスは求めておらずジューシーで柔らかなものを良しとしています。そのため、前者の「理想から逆算してグラスを選ぶ」場合はふんわり優しく飲みたいのでボルドーやシャルドネ、アロマもしっかり拾いつつスルスル飲みたいならテクグラスが最適だと考えました。総合的にはテクグラスが一番好みです。

パイントグラスだと他のものに比べて良く言えばフラット、悪く言えば若干のっぺりしがちです。Hazy IPAを何度も泡立てるとビタネスが気になるので、アロマは良くてもIPA専用グラスは機能の面で違うと思いました。

後者の「グラスの違いによる表情の違いを楽しむ」場合は気分に合わせて色々試すと良いと思います。何人かで集まってあーだこーだ言いながら実験しつつ飲むときっと楽しいです。そして、その仲間うちに共通理解が生まれるとそこから先の議論の前提が固まり、もっと先へと意識を向けることが出来るのではないでしょうか。

全く別の視点の問題

ここまでは「ビールとグラスの組み合わせと自分の関係」を考えてきました。テイスティングしていて気がついた別の視点での評価もここで付け加えておきたいと思います。お酒のカジュアルさと一杯の量には何か関係があるのではないかと思うのです。

先に挙げたボルドーやシャルドネ、テクグラスは全て脚付きのものです。ボウルがテーブルから10cmくらいは上にあって、重心が高い。ここが難しいと感じました。レストランでコースに合わせたデグスタシオンでワインをお願いした時、注がれる量は多くても100ml程度でしょう。ハーフパイント(8oz)注ぐことは絶対に無いと思います。100ml以下なら多少高い位置にあっても重すぎずグラスを持ちやすいですが、ビールの場合はそこそこの量を一度に注ぐことが多いので持った時に重心が高すぎるとかなりグラグラします。かなり不安定なのです。そのため、意識が手の感覚にちょっと持っていかれて舌と鼻の集中力が削がれる気がしました。機能性では良いのに身体性ではイマイチと言いますか。

そういう意味では脚無しの、たとえばリーデル オーシリーズなどの方がボウルの形状、体積そして重心の安定感から良いかもしれません。ただ、そうなると今度は手の大きさによってしっくり合うボウルの体積、直径が違ってきてしまいます。なかなかドンピシャのものって見つかりませんね・・・

アマゾンで形状の異なるものを組み合わせたセットが販売されていました。

結論

グラスの違いを感じたら、きっと次に行うべきは「今自分の求めているカタチが何なのか」について考えてみることなのかもしれません。「こういう感じで飲めたら満足だよなぁ」というイメージが持てたらお酒選びも、グラス選びももっと楽しくなると思います。

ちなみに、私の舌と鼻の感覚、そして手の大きさなどから総合的に判断してフルセイルブルーイングのHood River Hazy IPAはテクグラスで飲むのが一番良かったです。量をしっかり入れてガブガブ飲むならやっぱりパイントグラスが重心も安定して最適。少量をゆっくり柔らかく飲むならボルドーかシャルドネをお勧めします。

人によって感じ方は違うと思うので、ぜひ皆様も色々試してみて意見を訊かせてください。