オレゴンのブルワリーで働く立花薫に聞いた、醸造学科のリアル

Mar 12, 2020

2月27日にオレゴンのブルワリーで働く日本人、立花薫と題して現役でアメリカンクラフトビールシーンで働いている方のことをご紹介しました。多くの方に読んで頂き、非常に嬉しいです。

彼のことを改めて紹介しておきましょう。

立花薫(たちばなかおる)
1996年生まれ。大阪出身。地元の公立高校を卒業後、ボストンの大学へ入学するに当たって渡米。2年後、醸造を学ぶためにコロラド州立大学へ編入。卒業直前には元ニューベルジャンブルーイング醸造責任者の下でインターン。卒業後2020年1月からはオレゴン州アストリアのフォートジョージブルワリーに勤務。instagram→ astoria_japan  twitter→@brewer_kaoru

先日また日本からオレゴンに電話をかけて、彼に色々なお話を伺いました。今回のトピックは彼が卒業したColorado State University(コロラド州立大学)の醸造学科についてです。インターネット上で通り一遍のことは調べられるけれども、こういうリアルなお話はなかなか聞く機会がないので私自身ものすごく前のめりになってしまいました。自家醸造が合法なアメリカで更に専門家としての知識や技術を学ぶに当たって具体的に何をしていたのかを詳しく訊いています。これからクラフトビール醸造に携わりたいと思っていらっしゃる方の参考になれば幸いです。

①コロラド州立大学の学費はどれほどでしたか?

学費はコロラド州の人と州外の人とで違います。前者をin stateと呼びますが、年間12000ドルほどで、後者をout of stateと言って年間30000ドル程度。私や私の同級生も含め、scholarship(奨学金)はかなり利用されていて、全体の7割ほどは何かしらの奨学金を受けていると思います。私の場合は完全給付型で、返済不要のものでした。確か年間10000ドルくらいでしたね。
米軍でしばらく働いてから入学する人が多いです。やはりアメリカという国は退役軍人にも手厚いし、学費も割引になったりもするからです。18歳で入学はそこまで多くないですね。友人の1人にカップルで街を点々としている人もいて、定住先で仕事を探して働きつつ、パートナーと交互に大学に入って勉強していました。少ないですが、second bachelor(一度何かしらの学士号を取得してから改めて大学に入り、 2個目の専門を作る人)もいましたよ。

②コロラド州立大学で醸造学科のカリキュラムについて教えて下さい

入学は8月末でした。学校はsemester(セメスター、2学期制のこと)制で、1セメスターが15週間です。授業は1コマ50分で、一限目は8時から。授業時間数だけでいうと日本よりは少ない印象です。

学科設立からまだ7年ほどなので、カリキュラムもまだ発展途上だと感じます。内容もやりかたもどんどん変わっている印象です。
まず1、2年生では一般的なの理系の勉強をします。それに加えて、一般教養、ライティング、プレゼンテーション、社会学、歴史など、色々選択できます。化学・微生物学、食品科学の下にあるのが醸造学で、その下地を勉強する形です。
3、4年生になると専門的な内容になります。私が編入したのはここからです。
最初は座学で醸造について学びました。先生がモルソンクアーズの元ブルワーで、brewing processについてみっちり叩き込まれました。原料のことや機材のことも含まれています。ミルの種類には4ロール、6ロールがあってとか、centrifuge(遠心分離機)を使うとどうなるとか、マッシュフィルタープレスするとyield(回収できる量の理論値)が100%を超えるのでターゲットに合わせるには・・・とか。毎週記述式の宿題が20問ほどあり、それが本当に厳しかったです。ちゃんと理解していないと答えられませんので。ちなみに、使用していた教科書はこれです。

実技の授業は3年生、4年生の段階であって、たとえば亜鉛などの金属イオンが酵母にどう影響し、どう味が変わるかなどを実験しました。その他にもオフフレーバーに関する官能試験や、cell count(酵母数の計測)、具体的なレシピ作りも学びました。
ゲストスピーカーとして現役ブルワーが来てディスカッションする授業もあったり、senior seminarという授業ではこの業界で働く卒業生が来てくれパネルディスカッションなどもしました。また、Peter Bouckaert氏※ が来てくれたこともあって、その時のビール醸造におけるバレルと木材の話はとても面白かったです。

お酒以外に発酵食品の勉強もあって、毎週授業でキッチンラボでコンブチャ、チーズ、サラミ、キムチなどを仕込んでいました。教科書にはこれを使っていました。(学校では英語版でしたが、リンクは日本語訳)

他にもBrewers Associationの人が来て、Draught Beer Quality Manualを使ってドラフトビールの授業もしてくれました。

ちなみに、選択科目にはありますが、経営系の授業やパッケージ関係の勉強はnot required(必修科目ではない、という意味)でした。

※Peter Bouckaert氏はBrouwerij Rodenbach(ローデンバッハ醸造所)に勤め、1996年New Belgium Brewing に移籍。フーダーの導入などサワープログラムを開始し、La Folieを開発。退職後、Purpose Brewing & Cellarsを開業。著書にWood & Beer

③インターンに行くにはどうするですか?

インターンに行き、単位を取得することも出来ます。インターン先の決め方ですが、大学に来ているインターンのオファーを紹介してもらう方法もありますし、それ以外に行きたいところがあれば自分で動いて話をつけてくるやり方もあります。私の場合はPeter Bouckaert氏のPurpose Brewing & Cellars(パーパスブルーイングアンドセラーズ)でやりたくて、直接お願いしに行きました。承認されてインターンが始まると、週2回3、4時間ずつ勤務しました。
インターンに行って良かったなぁと思います。とても歓迎してもらいましたし、仕込みサイズが3〜4バレル(340〜450L程度)と小さかったのもあって自由に様々なことを経験させてもらいました。

同級生の1人はHigh Hops Breweryというところに行ったと聞きました。インターン先の規模や形態によって内容は随分違うと思います。

カリキュラムに入っていたからインターンとして現場で働けて良かったけれど、学費払って仕事するのはどうなの?という意見も実際無くはありません。

④卒業研究は何をしましたか?

卒業研究は数人のチームを組んで取り組みます。様々なブルワリーからオファーがあって、学校側から集まったプロジェクト案が提示されて生徒が応募するという形です。プロの醸造家をメンターとして頼り、研究します。

のチームはcrooked staveと組んでhigh alcoholおよびhigh acid環境下におけるbottle condition時のyeastの動きについてでした。普通はボトルコンディションする前にドライイーストをぬるま湯で起こしますが、今回は数日前から酵母を育て、その後少しビールも加えてhigh alcoholおよびhigh acidの環境に酵母を馴れさせてからピッチするという方法を採りました。ラボの方をメンターとし、実験の条件を決めて実施します。ブルワリーからビールを数十リットルもらい、酵母に加えるビールの量を何パターンも変えながら2〜4週間後にCo2volがどうなっているかを調べました。卒業発表は取り組んだ内容をポスターにして先生や現役ブルワーを前に説明します。実際のポスターがこちらです。

⑤教授陣について教えて下さい

醸造以外の授業についてはmicrobiology(微生物学)、 food science(食品科学)の人が多かったですね。醸造系はメインの先生はNew Belgium Brewingの古株の方で、現役でブルワリーでの仕事もしつつ大学でのインストラクターも兼任していました。
今にして思えば、ガチガチの醸造学系の先生はいなかったような気がします。コロラド大学の醸造学科は新しいからかもしれません。このコースには大学院がないので、古くからあるUC Davis(カリフォルニア大学デービス校)やOregon State University(オレゴン州立大学)の方がph.Dを持っている先生がたくさんいるはずです。

⑥勉強していて大変だったこと/楽だったことは何ですか?

好きで勉強しているので基本的に苦になることはありませんでした。強いて言えば言葉が大変ではありましたが、英語が大変だったというよりは、母国語の日本語の方が英語で考えディスカッションをしているよりも得れたものは大きかったんだろう、という感じです。良かったことは、、、授業でビールが飲めることですかね(笑)

アメリカの学生は日本の学生のほとんどが夜にバイトしているのに比べると、お昼にもしている印象です。そのせいかアメリカでは日本よりも夜はけっこうゆっくりしていて、しっかりと勉強に打ち込みやすい環境だと思います。

単位落としたことはないです。色々あって4週間でやめた授業があるけれど、別の期間に取り直しました。単位取るのが目的ではなくて、良い成績を取るのが大事だと思います。

⑦留学する前にやっておけば良かったことは何ですか?

まともに日本の受験勉強はしていなかったけど、日本の高校のレベルは高いと思います。ちゃんとやっておけば英語での不利は少ないはずです。たとえば、日本語で塩化物や硫酸塩を知っておけばChlorideやSulfateという言葉が出てきても「あぁ、塩化物や硫酸塩のことか」と置き換えることが可能です。そうすれば理解のスピードが早い。まずは母国語で理解できなければ英語でも大変だと思います。いきなりABG※に行ったりするのもアリかもしれませんが、しんどいでしょう。日本語で下地が出来ていると良いと思います。

あとは、間違ってもいいからとりあえず言ってみるのが大事ですかね。気合、大事だと思います。

※ABG American Brewers Guildの略。

話は尽きないのですが、最後にこんなことを聞かせてくれました。

Peterに卒業と仕事が決まったことを報告した時に、「これからが本当の勉強だね。これから先ずーっと」と言われたんです。 今日新しくベルリナーヴァイセを仕込んだのですが、下調べしている中でまだまだ自分の知らないことが多いことに改めて気づかされました。そして、やっぱり実地で得れるものは多いなとも。 もちろんそれは知識という下地があるからこそですし、実地で経験を積んでいく中で「これはどうなんだろう?」と疑問に思うことが沢山出てくるので、それが更にに学びに繋がっているんだとは思います。

今日はここまで。ということで、近々また長電話しながら根掘り葉掘り聞こうと思います。乞うご期待!!



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