リブランドするべき?
知っている名前がサムネイルに出てきたのでたまたま読んでみたのですが、「あぁ、これは日本でも大事だよなぁ」と思ったので書いてみようと思います。Rebrand(リブランド)、つまり既存ブランドの刷新についてです。
Classic rebrand: How CODO Design breathed new life into Georgia’s original craft brewery, Atlanta Brewing
How to ace your brewery rebrand
前者の冒頭にこういう一節があります。
We’ve all seen the same story play out across many different industries: a new indie band/restaurant/brewery comes on to the scene, and everyone is enamored. Then its luster begins to wane as more and more people flock to this new “thing.” As that indie band releases its third album and starts playing larger venues, as that small craft brewery adds a few more 60-bbl fermenters and launches into new markets, people start to lose that cozy feeling of intimacy you get when you discover something new. In becoming more well known, the experience of going there is no longer a special thing between you and your friends, and alas, the thrill is gone.
多くの業界に見られる話です。新しいインディーズバンド、レストラン、ブルワリーが登場し、みんなが夢中になっています。 そのインディーズバンドが3枚目のアルバムをリリースしてそれまでよりも大きな会場で演奏し始めるように、小さなクラフトブルワリーが60バレルの大きな発酵タンクを追加して新しいマーケットに商品を投入するようになるわけですが、新しい何かを別に発見してしまうとこれまでの心地よい感覚を失い始めます。 もっとよく知られるようになると、そこに行くという経験はもはやあなたとあなたの友人との間の特別なことではなくなり、悲しいかな、スリルは消えてしまいました。We’re now seeing this happen at such a fast clip that in some markets, breweries that opened just five years ago are now considered the old guard. And, if that’s the case for breweries that have only been at this for a few years, imagine how a craft brewery with 10, 15, or 20-plus years under its belt is feeling.
これが非常に早い段階で起こっているのを私たちは目の当たりにしています。いくつかのマーケットでは5年前に開業したブルワリーが今では古株と見なされます。 数年しか経っていないブルワリーの場合でこうなら、10年、15年、20年以上前に開業したクラフトブルワリーがどう感じられるのかを想像してみてください。
なるほど、なるほど。確かにそうです。今アメリカには7000軒を超えるブルワリーが稼働していて、あと数年で9000軒まで増えると言われています。ニューカマーが続々と開業しているわけで、たった5年でも古株です。10年超えたら老舗扱いでしょう。残念ながらそれは必ずしも良い意味とは限りません。
上記2つの記事では老舗のリブランド成功事例を紹介しています。記事で取り上げられているAtlanta BrewingおよびRed Brick Brewingは日本では全く知名度が無いと思うので少しご説明しておきましょう。このブルワリーは名前を2回変えているのでちょっとややこしいのです。1993年、ジョージア州アトランタの郊外にてAtlanta Brewingは創業しました。その当時現地にはクラフトブルワリーは無かったそうで、”Georgia’s first craft brewery”なのでした。その建物が赤いレンガ(=Red Brick)だったのでフラッグシップのビールにはRed Brickという名前が付けられました。フラッグシップが好調に認知されてきてAtlanta Brewingは2010年にRed Brick Brewingと名称を変更しました。2016年に私も実際にブルワリーに一度お邪魔したのですが、赤いレンガで作られた大きな倉庫を改装したブルワリーで、名前の通りだなと思ったのを覚えています。
せっかくなのでブルワリーにお邪魔した時の写真を貼っておきましょう。
ブルワリーに入ったところすぐにあるタップルーム。
ブルーイングスペース。大きなアンプからガンガン音楽かけながら作業していました。
恐ろしいほどの缶のストック。
老舗ならでは。過去のノベルティグッズ類がディスプレイされていました。
バレルルームは特になく、設備の端の方にたくさんの樽が並んでいました。
Red Brick Brewing時代のフラッグシップはHoplanta(ホプランタ)というIPAで、全体が黄緑色の缶でした。
Red Brick Brewingは地元でも人気でしたが、2017年に転機が訪れます。これまで問屋・酒販店を経由して販売するThree Tier System(=生販三層)に則って販売するルールでしたが、法案が可決しジョージア州ではブルワリーによる直販が出来るようになりました。詳細はGeorgia Craft Brewers Guildが発表している資料をご覧ください。ジョージア州は2018年の段階で人口1052万人で、ブルワリーはratebeerによると102軒稼働しています。他の州からもどんどんビールが入ってきていて、スーパーに行けば恐ろしいほどの種類が並んでいます。目移りするほどたくさんの種類が揃っているのは飲み手側にとって嬉しいことではありますが、ブルワリーの立場から考えれば数多ある中から選ばれるのはどんどん難しくなっているということです。選ばれるための施策がますます大事になってくる状況です。
競合が激増する中で伸び方も思わしくなかったのかもしれません。設立25周年を機にRed Brick BrewingはAtlanta Brewingへと名称を戻し、リブランドしました。通年ラインナップに新しいIPAを加え、ビジュアルも刷新。大分すっきりとおしゃれになりました。
同じ会社なのですが、instagramのノリが全く違いますので是非見比べてみてください。
Red Brick Brewing instagram
Atlanta Brewing instagram
リブランドに関して様々な視点があり、冒頭2つの記事ではそれらを紹介しているので是非ご覧ください。ブルワリーや市場の前提条件を精査した上でどうあるべきか、そして何をどうしたのかを綴っています。その中にある下記の問いかけは日本においても大きな意味を持つと思います。
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How can a brewery grow while remaining relevant to its fans?
ファンと関係を保ちながらブルワリーを成長させていくにはどうしたら良いか? -
How can a brewery stay enmeshed in its local community as it expands into different markets?
ブルワリーが様々な市場に進出するに、地元のコミュニティとどのように関わりを持ち続けることができるか? -
How can a brewery continue to call its product “craft” if it makes 15,000 bbls (or 30k, or 70k, or…) per year? Or, can it?
年間15,000バレル(または3万、7万、もしくはそれ以上)を生産する場合、どうすればブルワリーはその製品を「クラフト」と呼び続けることができるのか? そもそもそれは可能なのか?
もしかしたらこの視点、特に上2つについてはニューカマーだとか老舗だとかに関係なくブルワリー側が常に考えておかねばならないことなのかもしれません。同じスタンスでやっていきたいとは思うけれども、企業のステージとして「0→1」と「1→10」、そして「10→100」はやはり全く違います。自分たちが今どのステージにいて、今後どうなりたいかを急速に変わり続ける市場環境とすり合わせながら模索していくしか無いのでしょう。どのブルワリーであってもリブランド、もしくはリブランド的な施策を採ることは避けては通れない道なのだと思います。
こういった作業には多額のコストがかかりますが、やらなければ時代に置いていかれます。これをきっかけに値上げやアイテムの整理も可能です。リブランドが成功するとも限りませんし、積み上げてきた既存のブランドバリューを毀損する可能性もあるので大きな経営判断になるのですが、マーケットトレンドを考慮した上で今後それ以上のリターンが生まれるとAtlanta brewingは判断したのでしょう。研究しがいのある事例だと思います。
変わるべきときにはちゃんと変わりながら時代を生き抜いてきたからこそ、老舗になる。