今いる場所とここまでの距離を考えた

Jun 10, 2019

このビールを飲み、今いる場所とここまでの距離を考えた。

セゾンとは一体何なのだろう?そんなことを考える機会を作ってくれたのがこのビールです。Brasserie du Bocq(デュ ボック醸造所)が醸すSaison Regal(セゾンレガル)です。数年前に日本には輸入されなくなってしまった銘柄ですが、たまたま古いものを飲む機会に恵まれました。

セゾンとは何か?スタイルだけでなく歴史にも詳しいBJCPのセゾンの項目を見てみると、こうあります。

History

A provision ale originally brewed in Wallonia, the French-speaking part of Belgium, for consumption during the active farming season. Originally a lower-alcohol product so as to not debilitate field workers, but tavern-strength products also existed. Higher-strength and different-colored products appeared after WWII. The best known modern saison, Saison Dupont, was first produced in the 1920s. Originally a rustic, artisanal ale made with local farm-produced ingredients, it is now brewed mostly in larger breweries yet retains the image of its humble origins.

元々はベルギー内のフランス語圏のワロン地方で醸造されていたビールで、農作業の繁忙期に消費される低アルコールのもの。近代的セゾンとしてはデュポンが特に有名であり、初めてリリースされたのが1920年代とあります。なるほどなるほど。

今セゾンというとかなり解釈の幅を持っていると思われます。Commercial ExampleとしてBoulevard Tank 7 Farmhouse Aleが挙がっているあたりは今っぽいと感じるのですが、他にSaison de Pipaix,とSaison Regalも典型として上がっている点に注目したいと思うのです。デュポンあたりと比べると大分色も濃いし、イースティーというよりはモルティーさが全面に出てきます。決してホッピーで苦いわけではないし、酸味が強く立つわけでもない。ちょっとどん臭く思えてしまうほど、地味な味わいです。

セゾンについては識者の見解の方が分かりやすいと思うので、少し引用しておきましょう。

セゾン・ビールとは?(再掲に補足)
ベルギーのワロン地方で作られるボトルコンディション(瓶内発酵)ビール。「セゾン(Saison)」とは季節のこと。元来は、農家が夏の畑仕事で渇いた喉を潤すために冬から春先の農閑期に仕込んでおいた自家製ビール。歴史的には、季節労働者の雇用条件の1つとして、セゾン・ビールが取り扱われた経緯もあります。
水代わりに飲むためのビールなので、ややアルコール度数が抑えられている。一方、低アルコールだと保存性が悪くなるので、高温でマッシング(モルトの澱粉から発酵性の糖を抽出する糖化工程)して、発酵しない糖分の抽出量を多くし、乳酸菌(他の菌による腐敗防止に役立つ)で酸味をつけるなどし、ボトル内で二次発酵をさせて保存性を高めた。また、保存性を高めるために大量にスパイスを加えているのも特徴的。それも生姜とか、薬用植物とか、黒胡椒とか・・・風変わりなのも多いのです。
ビアスタイル・ガイドラインに「風味の特徴については、地方や醸造所ごとに昔から大きな違いが見られるため、一概に規定することはできない」とあります。なるほど、セゾン・レガル(Saison Regal)セゾン・ヴォアザン(Saison Voisin)、セゾン・ド・ピペ(Saison De Pipaix)、セゾン・デュポン(Saison Dupont)、今回ご紹介のセゾン1900などの有名なビールを比較してみると、そこに確固とした輪郭を見出しにくいことに気付きます。全くの私見ですが、セゾン・ビールは一般的な意味でいう「ビアスタイル」ではなく、いわば、社会や環境の中でどう位置づけられたかという意味での「機能的範疇」という側面が強いように思います(トラピスト・ビールがスタイルでないように)。

氏が指摘するように本来セゾンとは機能を指す概念であり、スタイルとしてまとめ上げることは難しいと私も思います。(トラピストの件も全くの同意です。)しかし、近年アメリカ発のクラフトビールが人気を博しており、元々のベルギーの風土、文化を背景にしたセゾンよりもアメリカ的解釈の総体であるFarmhouse Aleに触れる機会の方が多くなっているように感じられます。そのため、なんとなくBoulevard Tank 7 のようなものを「ど真ん中のセゾン」と認識してしまいがちなのではないだろうか。今の日本でセゾンレガルを飲んで「あぁ、セゾンだなぁ」と言う人は何人いるだろう。そんなことをふと思うのでした。

冒頭に上げたセゾンレガルは2000年のもので、香りはイングリッシュビターとは明らかに違っていましたが、飲んでみると全体としてそれに近い「モルティで、麦茶のような緩さと薄さ」がありました。当時もっと度数は低かっただろうけれど、昔の人はこういうものを農作業中に飲んでいたのかなぁ・・・

そうは言っても今は21世紀。昔とは何もかもが変わっていて、当然人気のビールも変わり続けています。ビールだけでなく、人のライフスタイルや認識もその当時とは全く違うでしょう。変わることは悪いことではないし、世の流れに応じて全てのものは必ず変化していく。ただ、その大きなうねりの中の一瞬だけを捉えてしまうのはどこか勿体無いようにも感じます。今いる場所とここまでの距離について考えるのも案外大事なんじゃないかと思えて仕方ないのです。どこから来たのか、今どこにいるのか。そして、それらを考えた先に「これから先の世界」が初めて見えてくるのではないでしょうか。

正直に申し上げると、2000年のセゾンレガルはお世辞にも美味しいとは言えなかった。でも、それは現代に生きる今の私個人の感覚なのであって、これを美味しいと感じる味覚的・文化的な世界に生きる人が他にいて、自身の解釈方法だけが絶対ではない。その異文化世界を理解しようとする心持ちが更にビールと人との関わりを面白くしてくれる気がしている。

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