アメリカの現役ブルワーに聞くハイパーローカル時代の在り方①

先日開催されたAmerican Craft Beer Experienceに二日間とも参加して参りました。毎年秋に行われるアメリカのクラフトビールが一同に介するイベントで、インポーターの付いているブランドのみならず輸出を検討している未入荷銘柄を試すことが出来ます。ワクワクしながらガンガン飲んでしまったので肝臓は大分疲れてしまいましたが、新たな発見もあり非常に楽しいひとときでした。一緒に乾杯して頂いた皆様、ありがとうございます。

さて、2日目の午前に来日したブルワーさんたちとBrewers Associationのexport program責任者によるセミナーがあり、そちらに参加しました。その時のことを今日は少し書いてみようと思います。

今回のパネリストが何人もいらっしゃいましたが、概ね小規模なブルワリーの方々が多かったです。アメリカのクラフトビールシーンの最前線の動きをご本人がリアルに感じていらっしゃるので、現場での感覚を是非聞いてみたいと思ってこんな質問をしました。

「ブルワリーが7000軒を超え、これから更にハイパーローカル化が進むと思いますが今後差別化するにはどうしたら良いと思われますか?」

まずは前提となる「ハイパーローカル」については少し説明しておきましょう。自身の立ち位置における競合について考えると分かりやすいと思うので、こんな図を作ってみました。

ビールというマーケットにおけるプレーヤーを「NB」と「クラフト」に分けます。まずここは良いでしょう。その上で、クラフトを活動しているフィールドの広さで分けていきます。nationwide(ネイションワイド、全国展開)の対義語としてのlocal(ローカル、地元)があり、クラフトビールは地ビール的なニュアンスを持ちながら発展してきました。いわゆるナショナルブランドではないクラフト大手も生まれましたし、NBによる買収でnationwideに近い形で流通するブランドもかなり増えました。言ってみれば、mass craft(マスクラフト)が現れたということですね。規模からしてもsierra nevada、brooklynなどは最早そう言って良いと思います。

現在アメリカでは7000軒以上のブルワリーが稼働しており、今後数年で9000まで増えると言われています。すでに自宅の半径10マイル以内に1軒はブルワリーがほぼ確実にあるアメリカのマーケットにおいて、せっかく飲むなら地元のものの方が良いよねと考える人が多いという統計データもあります。どの州でも買えるマスクラフトビールと愛着のある我が州のクラフトビールという対立も見られるのです。nationwide craftに対するstatewide craft(=local)ということですね。

更に細分化され、localに対してhyper localという概念が近年語られるようになってきました。ローカルではなくて、もっとローカル。「どローカル」とでも訳せばいいでしょうか。州なんて大きな単位ではなくて、町単位。町ひとつにも複数ブルワリーがあったりしますから、超ピンポイントマーケットであるハイパーローカルが重要な概念になってきました。ということで、とりあえずハイパーローカルとは「超地元マーケット」くらいに認識して頂ければ良いと思います。

CRAFT DRINKSが何故ハイパーローカル化について質問したかというと「ビール産業内における自社の競合・仮想敵の認識において地理的範囲が狭まってきている」からで、それと同時に飲み手側の志向が大きく変化してきているとも思うからです。市場環境が変化してきているからこそ、その変化をどう捉えどう対処しているかを聞きたかったのでした。

ブルワーの皆さんの回答は非常にシンプルかつ明快でした。そして、それを聞いた日本人である私は大分考え込んでしまったのでした。

長くなってしまったので続きは次回に。