ウルトラソニックインフュージョンメソッド
CRAFT DRINKSが全力で支持する、アメリカ・オレゴン州のクラフトブルワリー”Full Sail Brewing”(フルセイルブルーイング)から新作IPAが登場です。30年以上続く老舗のフルセイルですからその品質は相変わらず高いのですが、この新作に用いられている技術が興味深いのです。日本では聞いたことのないものですし、せっかくなのでご紹介したいと思います。
フルセイルブルーイングはとにもかくにも品質にこだわります。旨いものが出来なければ意味がない、そう考えています。しかし、高品質の実現と同時に効率も重視します。手をかければ良いのではなく、常に改善、改良を考えてビール作りに向き合っているのです。ですから、工数少なく、短時間で高品質なものが作れるのであればしっかり投資もします。たとえば麦汁を取る作業を効率化しながら回収量も向上し、時間も短く出来るということで10年以上前からマッシュフィルターを導入しています。去年は缶ビールの需要増加に合わせて最新式のカニングマシンも導入。そのおかげで100名以上いるスタッフ全員が週休3日!フルセイルブルーイングは「品質と効率」をモットーとしているのです。
さて、今回新しくリリースされたのはAtomizer Ultrasonic IPA(アトマイザー ウルトラソニック IPA)。フルセイルの公式HPの説明を引用してみます。
Since earth has become overrun with IPAs, Full Sail Brewing developed a high-tech, top-secret, Ultrasonic Infusion method to deliver enhanced aroma and flavor into this balanced, unfiltered, hoppy brew. A combination of Cryo Citra, Mosaic, Simcoe and Ekuanot hops make Atomizer Ultrasonic Infused IPA ingeniously flavorful.
高い技術力によるウルトラソニックインフュージョンメソッドによって強烈なアロマとフレーバーをバランスの取れた無濾過のホッピーなIPAにもたらします。クライヨのシトラ、モザイク、シムコー、エクアノットのコンビネーションでこのIPAに独特なフレーバーが生まれます。
先にクライヨについて触れておきましょう。Cryo(クライヨ)というのはホップの中にあるルプリンという成分だけを抽出してパウダー化させてもので、今回こちらのIPAには4種類組み合わせて使っています。クライヨはNEIPAをはじめとする最近のIPAにはよく使われますが、それはペレットに比べてドライホップ時に吸収する水分が少ないからというのが一つの理由です。ペレットでドライホップするとどうしてもペレットがビールを吸い込んで最終製品の量が減ってしまう。勿体無いからと言ってここでぎゅうぎゅう絞ったら渋みが出てせっかくのIPAが台無しになるので、収量が減るのは仕方なかったのです。しかし、クライヨならば収量がぐっと増えます。狙った香味がちゃんと出るなら収量が多い方が良いですよね。効率が良いのはとても大事。
では、「ウルトラソニックインフュージョンメソッド」とは何なのか?フルセイルブルーイングが発表しているアトマイザーの製法に関するインフォグラフィックを見てみましょう。
インフォグラフィックの下部にあるように、このビールはとても高い技術によって作られていて科学的なアプローチがふんだんに盛り込まれています。このアトマイザープロセスによって、ホップの袋を開けた時のような香りがどーんと出せるし、狙った香りをピンポイントで出せるそうです。左のタンクから順に見ていきます。スライム状になったホップを容器に入れます。冷たい状態でそこに超音波を当ててスライム状のホップに微細な泡を発生させていくと、ホップのアロマをフレーバーがぐっと出てきます。冷たい状態ですから、熱が入らないのでホップの精油成分が苦味に変質することはありません。それを遠心分離機にかけてオフフレーバーの原因にもなるホップの細かなかけらなどを除去します。最後に秘密の処理を加えて出来上がり。
最後の処理については秘密なので取り扱うCRAFT DRINKSにも詳しいことは教えてくれないのですが、結局超音波を当てるとはどういうことなのだろう??ちょっと考え、フルセイルはこういう現象を利用してホップアロマの最大化をしているのではないだろうかというものを見つけました。(CRAFT DRINKSは科学の専門家ではありませんので、あくまでも予想の範疇を超えないものとしてお読みください。)ホップは煮込むなどの作業で熱を加えると苦味が出ます。ホップの苦味ではなく香りが欲しいのですから低温で使用するという理屈は分かりやすいでしょう。では、低温下で抽出する香味成分のより増大させるにはどうしたら良いのか?そのヒントになりそうな動画を見つけました。
craftbrewingbusinessのIncrease the amount of alpha acids extracted from hops with ApoWave technologyという記事でも振動で効果を上げることが指摘されており、超音波との類似性を紹介しています。この技術に近いものではないかとCRAFT DRINKSでは予想しています。単に浸漬するよりも今までよりも多く成分を抽出することを可能にしてホップアロマを増大しつつも、投入するホップを減らすことが出来そうです。面白いなぁ。(先程も申し上げた通り、CRAFT DRINKSは科学者ではありませんのでとんちんかんなことを書いているかもしれません。科学をご専門になさっている方、是非コメントください。よろしくお願い致します。)
Atomizer(アトマイザー)とは噴霧器や香水吹きのことで、少量の水分でフワーッと香らせる機能を持つものです。ホップのアロマを最大化する「ウルトラソニックインフュージョンメソッド」をこれになぞらえて名前をつけたのでしょう。なるほど、なるほど。Atomizer Ultrasonic IPA(アトマイザー ウルトラソニック IPA)のモルトには一部小麦とオーツも使われており、仕上がりも若干濁った感じです。説明通りアロマはホップ爆発ですが、飲んでみるとノースウェストらしいモルトのボディをしっかり感じ、フィニッシュにはIBU70のビタネスでがっつりと。New England Style IPAというよりも、あくまでもノースウェストIPAの筋は残しつつもNEIPAに少し寄せた感じがします。実際、フルセイルもNEIPAだとかヘイジーIPAとは言っていないのでそういうことなのでしょう。アロマどーん、モルトふわっと、ビタネスがっつりの三層構造ですね。IPAとして非常に良く出来ているのでファンの皆様に楽しんで頂ければと思います。
Atomizer Ultrasonic IPA(アトマイザー ウルトラソニック IPA)は本日16時よりCRAFT DRINKS SHOPにて発売開始です。