酒屋さんはもっと話をしよう、酒屋さんともっと話をしよう

数年前に比べたら「クラフトビール」という言葉は随分認知されてきたと思います。国内ブルワリーもかなり増えて300軒を超えましたし、インポーターもかなりの数の銘柄を輸入しています。その総数はもはや数え切れないほどになっていると思います。

ビアパブをはじめとする飲食店でドラフトのクラフトビールを楽しむことは家では出来ない体験が出来ますしとても良いことだと思いますが、なんだかんだ言っても自宅でお酒を飲むことは気楽で楽しいものです。成功しているビアバーがやっている5つのこと②知識のあるホールスタッフという文章でお店側からお客様への提案について少々書きましたが、同じことが酒屋さんにも言えるのではないかとCRAFT DRINKSでは考えています。駅と家の間にで指摘したように、「地元のあの酒屋さんが僕の最高の倉庫」という意味で「家飲み最強」と言いたいのです。その意味でもクラフトビールをご紹介し提案する最前線として酒屋さんに期待している人は相当いるはずです。私も是非頑張って頂きたいと思っています。

酒屋さんはビアパブに比べて圧倒的多数の銘柄を置くことが出来ます。店頭に並んでいなくても倉庫に隠していたものを出すことだって可能。ラインナップの複雑性や幅広さについては絶対的有利であることは間違いありません。そこで重要なのは、「ラインナップを把握しているのはお店だけ」ということ。お客様はそこに何があるかは全くわからないのです。当たり前のことなのですが、結構忘れがちなので敢えて指摘しておきたいと思います。だから、お客様の要望を在庫と照らし合わせその中から最高の一本を提案することが今酒屋さんに求められています。言ってみればセレクトショップ、なのですよね。センスの良い、それでいてわがままを言えるセレクトショップ的な酒屋さんは何とも居心地が良くて素敵です。ショーケースを眺めているだけでワクワクするし、なにかにつけ通ってついつい長居してしまう。

黙っていても引き合いが強くて自然と売れていく限定品を仕入れることが出来るコネがあってもそれがお客様の要望にマッチするかどうかはまた別の話です。21世紀の酒屋さんに求められているのは「ヒアリング能力」と「うまく言葉にならない気持ちを察する力」なのかもしれませんね。たとえば、「苦いものが欲しい」と言われたとしても「どれほど苦いのか?」というのは人それぞれ感じ方が違います。「フルーティーな感じのものが欲しい」などもそうですね。その適切なすり合わせをして、ちゃんとストライクゾーンに収まるようなビールを提案できればきっとお客様の信用を勝ち得ることが出来ると思います。

この話をちょっと難しく考えると、「僕の感じた苦味とその強さは同じものを試した他の誰かと全く同じなのかどうか?」という問題なのですよね。クオリアに近い話のかもしれません。本質的には擬似的なのかもしれませんが、私達は対話することで理解し合うこと、共通の認識を持つことが可能だと思います。ですから、酒屋さんはもっといっぱいお客様と話をすべきだし、お客様ももっとお店のスタッフに声を掛けるべきでしょう。なぜならば「美味しいものを提供したいお店」は「美味しいものを求めるお客様」に最高のものをご紹介したいのですし、「美味しいものを求めるお客様」はよく分からないから「美味しいものを提供したいお店」から提案を待っているのですから。どちらからでも構わないのでインタラクティブなやりとりを始めないと素敵なビールには到達しない。お互い黙っているのは勿体無いなぁと思うのです。

今こそ酒屋さんが必要です。地元のクラフトビール文化形成において不可欠な存在なのですから、酒屋さんがめいっぱい語ってめいっぱい話を聞き、あまたある中から魂のこもった最高の一本を届けて頂ければと思います。その感動体験はビール自体だけでなく、お店やそのスタッフの方自身への信用へと繋がり、シーンを支えることになるはずだとCRAFT DRINKSは信じています。