世界最大手の最近の動向について③RateBeerへの関わり

数日空きましたが、世界最大手のビール会社・インベヴ関連の第三回目です。前回までのものは以下です。是非お目通しください。

世界最大手の最近の動向について①新たな買収
世界最大手の最近の動向について②ホップの供給について

さて、今回は「ratebeerへの関わり」の話題です。つい先日のことです。こんな情報が出て、驚きました。

AB InBev’s ZX Ventures Buys Minority Stake In RateBeer

元々のソースはこちらで、世界最大級のクラフトビール評価サイトであるRateBeerにインベヴ系投資会社であるZX Ventureが一部出資した模様。この会社のことは以前「意外な動き」という投稿で自家醸造グッズ販売会社であるノーザンブルワーを買収した件でご紹介したので記憶にある方もいらっしゃるかもしれません。100%ではなく一部の出資とされていますが、その割合は不明です。それ故、ユーザー達は疑心暗鬼になっていて、色んな憶測が飛び交っています。気になる方は検索してみてください。

輸入ビールの触れ込みとして「RateBeerで×××点を取りました!」というものがあったりするほど、そのスコアが重要視されてきました。RateBeerのおかげで急速な伸びを見せた醸造所も少なくないでしょう。アメリカ国内だけでなく、ワールドワイドに認知向上させるのにとても大きな役割を果たしていたことは間違いありません。事実、私もよく利用していました。

しかしながら、今回の動きは見逃せません。世界最大手であるインベヴが「お金は出すけれど、運営には一切口を挟まない」などということがあるのでしょうか。単にオンライン上のデータ収集が目的なのでしょうか。穿った見方をすればビールに関する一般消費者の口コミや評価がビール会社によって恣意的に改ざんされるのではないか?というも懸念も出てきます。少なくとも、そういうバイアスのかかる可能性が否定できないと思います。もちろんまだ「可能性がある」としか言いようがないのですが・・・このトピックについては今後も注視していきたいと思います。

この動きを受けてDogfish Headのオーナーであるサム・カラジオーネ氏が興味深い発表をしています。RateBeerにあるDogfish Headのレビューを全て削除するように求めているのです。

A message from Sam on current RateBeer changes

結論の部分を引用し、ざっと訳をつけておきます。

To that end, we have respectfully asked Anheuser-Busch InBev and RateBeer to remove all Dogfish Head beer reviews and mentions on the RateBeer website immediately. It just doesn’t seem right for a brewer of any kind to be in a position to potentially manipulate what consumers are hearing and saying about beers, how they are rated and which ones are receiving extra publicity on what might appear to be a legitimate, 100 percent user-generated platform. It is our opinion that this initiative and others are ethically dubious and that the lack of transparency is troubling.
最後になりますが、我々はインベヴおよびRateBeerに対してDogfish Headのビールに関するレビューやコメントを速やかにサイト上から全て削除することを求めました。どういうタイプであれ醸造を行う者がビールに関して消費者が見聞きする情報を操作可能な立場にいることは正しくないでしょう。透明性の欠如は問題だという我々の意見です。

彼の言うことはもっともです。頷くしか無いのです。

私は仕事としてクラフトビールに関わっているので大きな潮流というものにも興味はあります。とはいえ、一人のビールファンとして思うのはクラフトビールにおいても「情報」に価値が発生していて、実際今目の前にあるビールのことが少し置き去りにされてしまっているのかもしれないということです。今までもRateBeerにはRateBeerなりの偏りがあって、自分のことを振り返ってみるとそのスコアや評判を盲信していなかったとは言い切れない気がします。出資されたことによりそのバイアスのかかり具合が強くなるだけで本質的には外部依存であることに変わりないのではないだろうか。「他所の誰が何と言おうが、あの人のあのビールが好き。旨いと思う。」というような感覚的で情緒的な内側にある何かをもっと大事にして良いはずです。クラフトビールが心の底から好きになった理由もそうだったのですから。いつしか初心を忘れてちょっと偏りすぎていたことが否めないのではないか。今回のことをきっかけに自分とビールとのアナログな関係性のことをもっと大事にしよう。そして、「情報」に従属的ではなく、主体的かつ積極的に関わろう。そんなことをふと思うのでした。

サム・カラジオーネ氏は先程の文章の最後をこう締めくくっています。”indie”という言葉が何とも印象的です。

America’s Independence Day is just around the corner. Support the indie craft brewing movement!